ジャングル記21 残り10km。それで終わり | ジャングルを走ってみた

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唐突にヘッドライトの電池が切れた。消耗の早さは想定外だった。
キャンプ地で毎晩使いすぎていたのかもしれない。サブで使っていた別のヘッドライトから3本の電池を詰め替える。光量の足りないサブは荷物の中でスイッチがオンになっていたこともあり、電池の残量に不安が残る。
 
本当に必要な場面に備えてスイッチを切る。
目を閉じて暗闇に目を慣らし、心を落ち着かせてから再出発。
 
街灯を最後に見たのは何時間前だったろうか。頼りになるのは月明かりだけ。

遠くに明かりを見つけて駆け寄る。人の気配はない。
チェックポイントではなく無人の小屋だった。
それからは、その繰り返しが続く。淡い期待を抱いては落胆する。そのたびに気を取り直して進む。また遠くに黄色の光。また駆け出す。何度も、何度も。

すると、小さな光がゆらゆらと近づいてきた。
「チェックポイントまでもうすぐだよ」
ブラジル人スタッフだ。横に並んで道を案内してくれる。
深夜の気遣いに胸が熱くなる。
道をちょっと間違えたり、「もう少しだ」と連呼しているわりに辿り着かないのはご愛嬌だ。並んで走ってくれる人がいる、それだけで嬉しかった。

チェックポイントはコンクリート造りの小屋だった。ここをすぎると次が最後のチェックポイントになる。
 
僕が到着したところで、ちょうど休憩を終えたジョシーとエイミーが入れ違いに発っていった。後ろ姿を見送り、腰を下ろす。
 
緊張が緩んだせいか、弱気になった。もう追いつけそうにない。
順位なんてこだわってないんだし、別に追いつかなくてもいい。自分にしてはよくやったよ、と自分に言い聞かせる。
 
体が限界に近づくと、何度も自分の心と向き合わされる。その都度、気付きがある。言い聞かせているのは何の言い訳なんだろう。これまでも失敗する、失敗しそうになるとそうしてきた積み重ねだ。仕事、サッカー、恋愛。自分が傷つかないように、言葉をいくつも並べてごまかしてきた。並べた言葉の数が自分の弱さだったのだ。地球の裏側まできて、みっともないことを、知りたくもないのに知らされる。
 
そんなことを考えていると、自分に腹が立ってきた。まだすべてを出し切っちゃいない。やれることが残っているはずだ。

「残りは10km。それで終わりよ」
ゴールまでの距離を聞くと、女性スタッフが笑顔で右手の親指を立てた。僕も同じポーズで応え、靴下の砂を払ってシューズに足を通す。
 
ほどけないよう、きつく靴ひもを結ぶ。軽くジャンプして膝を曲げ伸ばす。足の状態は気にならない。さあ最後のランニングだ。軽いストレッチを終え、地面を蹴った。痛みも、弱音も全部置いていける気がした。