さらに細かい砂の粒子はヘッドライトに照らされ、白く乱反射して視界を狭める。
森が両脇に迫った一本道は、硬い土がむき出しで不規則にひび割れている。
家の前で遊ぶ子供たちは見慣れない顔の外国人ランナーを見つけ、無邪気に手を振り声援を送ってくれる。こちらも笑顔で応える。咄嗟につくった表情ほど体の調子は良くない。全身が重い。
民家の一角を間借りしたチェックポイントで夕飯をとる。
森が両脇に迫った一本道は、硬い土がむき出しで不規則にひび割れている。
滑らかなアスファルトを走るのとは勝手が違い、テンポよく走ることができない。
もっともペースが上がらないのは暗闇のせいだけではない。体力の限界が近づいていた。
陽光が最後のきらめきを見せ、ジャングルを赤く染める。
陽光が最後のきらめきを見せ、ジャングルを赤く染める。
長かった一日が暮れようとするころ、草原から続く道にも変化があらわれた。
ぽつり、ぽつりと民家が並ぶ。広大な隙間を埋めるように草木が茂る。
森の向こうに沈んだ太陽に代わり、オレンジ色の温かな光が窓から漏れてくる。
なんだか懐かしい。たかだか1週間足らずで、窓の向こうにある日常生活が恋しくなった。
家の前で遊ぶ子供たちは見慣れない顔の外国人ランナーを見つけ、無邪気に手を振り声援を送ってくれる。こちらも笑顔で応える。咄嗟につくった表情ほど体の調子は良くない。全身が重い。
民家の一角を間借りしたチェックポイントで夕飯をとる。
スタッフからお湯をもらい、アルファ米の五目ご飯を戻す。
米が柔らかくなるのは5分後。腹が減って待ちきれない。
一口だけのつもりで、固い米をかじる。意外といける、もう一口。音を立ててさらに頬張る。ガリガリ、ボリボリ。あっという間に2袋が空になった。ついでに川に浸かったシリアルバーも食べる。溶けかかって食感はいまひとつ。
腹が満たされ、食べたものが体の中で吸収されるのが分かる。
じわりと体力が戻ってきた気がした。
食後、足の裏にできた水ぶくれをメディカルスタッフに治療してもらう。方法はいたってシンプル。針を刺して水を抜く。以上。
そのときに患部を圧迫するせいか、脂汗が吹き出るくらいに痛い。
こぶしを握り締めて耐える。
「痛むか」と聞かれ、首を縦に振る。
だからといって手を止めてはくれない。じゃあ聞かないでよ。どこかで知ってる、この感覚。ああ、日本の歯医者と同じだ。計7カ所の処置が終わるまでじっと待つ。
患部にテーピングを施してもらい、ぼろぼろに破れた靴に足をねじ込む。ジャングルで木や岩に引っ掛けて穴だらけだ。
足裏に体重をのせると痛みが残っていた。
足裏に体重をのせると痛みが残っていた。
治療したといっても、走り続ければ悪化するのは目に見えている。痛かろうが、万全であろうが、やらなきゃいけないことをやるだけだ。
チェックポイントでジョシー、同じくイギリス人女性のエイミーと、ロンドン在住のロシア人セルゲイの英国トリオと合流した。
4人で出発するころには辺りは真っ暗に。先を急ごうにも昼間のようにはいかない。
地面と目印を交互に照らす。路面のわずかな起伏を見逃すと足をとられて転びそうになる。じれったいが、スピードは鈍り、早足に近いペースになる。
トリオの荒い呼吸と靴音が一定のリズムをつくる。僕は遅れがちに何とか付いていく。固い地面のデコボコが足裏に響き、痛みは脳天に突き刺さる。追い掛けるのがやっとだ。
このままゴールに辿り着けるのだろうか。暗闇を照らすライトの明かりがひどく心細かった。