たとえば、悲しい境遇の人物がいたとします。
演出家やお客様に、
「ちっとも悲しく見えないね」と評価されて、
じゃあ、もっと悲しい気持ちになって演じよう、
とするのは間違いです。
これでは造花の花弁の色を、
もっと鮮やかな色に塗り替えようとする作業と同じです。
木や草や花が生き物であるように、
役だって生き物なのです。
木や花を元気にしてやろうと思ったら、
水を与えたり陽に当てたりするでしょう。
役の場合はその人物の悲しみの根元を、
見つけてあげることです。
そしてその過酷な境遇を一緒に受け止めてあげることです。
つまり心の奥底を具体的にし、
回りの人間関係を具体的にするのです。
俳優が勝手に気分を変えたり、
感情を装飾することではないと思うのです。
▶︎近景