僕が中学のころ受験戦争という言葉が流行り始めました。
良い高校に行って、
良い大学に入学出来れば大企業に就職が出来る、
もしくは公務員になって一生安泰。
子供たちは親や社会にそう諭されて一生懸命勉強しました、
確かにそうかも知れない。
でも、それってあんまり楽しそうじゃないなと僕は思いました。
あるとき僕は友達に聞いてみました。
「なんで高校に行くの?」「みんなが行くから」
「なんで大学に行くの?」「みんなが行くから」
それってなんか違うなと思いました。
しかも僕は勉強が大の苦手でした。
だいたい授業が面白いと思えない。
だから授業中に騒いだり、休憩時間に友達と喧嘩したり、
毎日なんだかイライラしていました。
で、けっきょく耐えられなくなって、
ドロップ・アウトすることにしました。
ひとりでは心細いので、
おんなじように勉強の出来ない友達に声をかけ、
中学を卒業したら東京へ行って働かないかと誘いました。
少年マンガ雑誌に載っていたモデルガンの工場に就職すれば、
男ひとりが食べていくくらい出来るだろうと、
無謀は計画を立てたのです。
ところがその友達が彼の親に問いつめられて、
計画を白状してしまいました。
計画が僕の親にも伝わり、学校にも伝わって、
ある日突然、担任の女教師が家庭訪問にやって来ました。
やばいと思って僕は自分の部屋に逃げました。
彼女はかまわず追いかけて来て、
僕を部屋の隅に追いつめて言いました。
「あんたは工員になりたいのか?
だったた工業高校に行きなさい」
「いやそういうわけじゃ」
「映画館を継いで商売人になるのか?
だったら商業高校に行きなさい」
「いやそういうわけでも」
「だったらせっかくご両親が行かせてあげる、
とおっしゃってるんだから普通高校に行って、
真剣に将来を考えなさい」
「………」
先生に追いつめられて、
僕は生まれて初めて自分の将来と真剣に向き合いました。
「僕はいったい何になりたいんだろう」
でもすぐには答えは出ませんでした。
▶︎丸子橋