恩師1 | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。

 

僕が中学のころ受験戦争という言葉が流行り始めました。

良い高校に行って、

良い大学に入学出来れば大企業に就職が出来る、

もしくは公務員になって一生安泰。

子供たちは親や社会にそう諭されて一生懸命勉強しました、

 

確かにそうかも知れない。

でも、それってあんまり楽しそうじゃないなと僕は思いました。

あるとき僕は友達に聞いてみました。

「なんで高校に行くの?」「みんなが行くから」

「なんで大学に行くの?」「みんなが行くから」

それってなんか違うなと思いました。

しかも僕は勉強が大の苦手でした。

だいたい授業が面白いと思えない。

だから授業中に騒いだり、休憩時間に友達と喧嘩したり、

毎日なんだかイライラしていました。

で、けっきょく耐えられなくなって、

ドロップ・アウトすることにしました。

ひとりでは心細いので、

おんなじように勉強の出来ない友達に声をかけ、

中学を卒業したら東京へ行って働かないかと誘いました。

少年マンガ雑誌に載っていたモデルガンの工場に就職すれば、

男ひとりが食べていくくらい出来るだろうと、

無謀は計画を立てたのです。

ところがその友達が彼の親に問いつめられて、

計画を白状してしまいました。

 

計画が僕の親にも伝わり、学校にも伝わって、

ある日突然、担任の女教師が家庭訪問にやって来ました。

やばいと思って僕は自分の部屋に逃げました。

彼女はかまわず追いかけて来て、

僕を部屋の隅に追いつめて言いました。

「あんたは工員になりたいのか?

 だったた工業高校に行きなさい」

「いやそういうわけじゃ」

「映画館を継いで商売人になるのか?

 だったら商業高校に行きなさい」

「いやそういうわけでも」

「だったらせっかくご両親が行かせてあげる、

 とおっしゃってるんだから普通高校に行って、

 真剣に将来を考えなさい」

「………」

 

先生に追いつめられて、

僕は生まれて初めて自分の将来と真剣に向き合いました。

「僕はいったい何になりたいんだろう」

でもすぐには答えは出ませんでした。

 

 

▶︎丸子橋