ファーストキス | 田窪一世 独白ノート

田窪一世 独白ノート

ブログを再開することにしました。
舞台のこと、世の中のこと、心の中のこと、綴っていきます。


中学3年生の時、

同級生の女の子から告白されました。


女の子から告白されたことなんて初めてのことだったので、

僕は有頂天になってしまい、

すぐに、当時流行っていた交換日記なるものを始めました。


今みたいに携帯電話など無かった時代です。

一冊の日記帳をデートのたびに交換するという、

ちょっと手間のかかる愛情表現が、

嬉しくてしかたありませんでした。

二人の待ち合わせ場所は、

学校の裏にある神社の雑木林の中です。


ある日、彼女からの日記帳を、

家に帰って開いてみてドキッとしました。

そこには「昨日二人が結婚式を挙げている夢を見ました」

と書いてありました。

そして「二人は誓いの言葉のあとに誓いのキスをしました」

と続き、

「そこで目が覚めたんだけど、

恥ずかしくてひとりで顔を真っ赤にしてました」


彼女の日記を読みながら興奮する僕。

「わたし、あなたとキスしたい。

でも、わたしたち中学生だからまだ早いよね」

僕の興奮は頂点に達しました。

キスだ!キスだ!キスだ!キスだ!キスだ!

そしてすぐに彼女への返事を書きました。

「そんなことはないと思うよ」


翌日、いつもの待ち合わせの場所に行って、

日記帳を彼女に渡しました。

二人は終始無言でした。


その後、日記帳を通じてキスをする日時と場所を決めました。

日時は一週間後の日曜日、場所はいつもの雑木林の中です。

女の子のくちびるってどんな感じなんだろう?

やわらかいのかな?あったかいのかな?

緊張と興奮の一週間でした。


でも、意識して、のべつくちびるを舐め回していたので、

一週間後にはくちびるが腫れて、

ちょっと感覚がなくなってしまいました。

でも、そんなことで中止には出来ません。


日曜日のお昼過ぎ、僕は家を出ました。

ちょうどその日は町内の駅伝大会が催されていました。

町中は大会を見物する人で賑わっています。

まるで選手たちのドキドキが僕に伝染したみたいに、

僕の心臓はドクンドクンと大きな音を立てていました。


約束の雑木林の中に入って行くと、

彼女はすでにそこにいました。

二人とも立ちすくんだまま、緊張で一言も喋れません。

口の中はカラカラに干上がっています。

僕は勇気を振り絞って彼女に言いました。

「し、しようか?」

「う、うん」

ドキドキしながら二人は向き合いました!


僕は彼女の両肩に手をかけます!


そして彼女をグイと引き寄せました!


彼女の唇は僕の目の前にあります!


いよいよそのときが来たんだ!


と、そのときです。

突然、頭がクラクラして僕は立っていられなくなりました。

僕は思わずその場にしゃがみ込んでしまいました。

「ご、ごめん、ちょっと休ませて」

「………」

雑木林の中でしゃがみ込んでいる僕。

なす術も無く立ちすくんでいる彼女。

(カッコ悪りぃ~~~)


ちょっとして、気分がよくなった僕は立ち上がり、

あらためて彼女にキスしたのでした。

(カッコ悪りぃ~~~)


ファーストキスの味は、

唇が腫れていたのでよくわかりませんでした。

(ほんとカッコ悪りぃ~~~)



▶︎近景