いま取り組んでいる「大きな銀杏の樹の下の小さな泉」に、
こんな場面があります。
工場で働いている青年と弁当屋の店員の少女が、
喫茶店で緊張しながら初デートをしています。
台本では、
光雄「あ、あの」
早苗「な、なに?」
光雄「いや、あの」
早苗「う、うん」
光雄「今日の白身魚の西京漬……」
早苗「うん」
光雄「美味しかったな」
早苗「そう」
光雄「ほんと美味しかった」
と続いていくのですが、
俳優はまず「あ、あの」という台詞を、
どうやって喋ろうかと苦心します。
しかし演技に大事なのは「認知、判断、行動」です。
まず台詞を工夫するというのは行動から始めるということです。
ここに認知、判断はありません。
「あ、あの」の前にやるべきことがあるのです。
まず、男優は彼女の体を舐め回すように見ます。
彼女のくちびるが色っぽいなあとか、
おおきなおっぱいだなあとか、
思ってたより肌が白いんだなあとか、
出来るだけ具体的に彼女を観察します。
これが認知です。
ふと顔を上げると彼女もこちらを見ていた。
やばい!
じろじろ見ていたのがバレたかも!
どうしよう!どうしよう!
これが判断です。
そして初めて行動の、
「あ、あの」
となるわけです。
これが認知、判断、行動。
人間の生理に合った演技なのです。