美しさ、醜さ、残酷さ、気高さ、人情味、
歌舞伎には人間のあらゆる面が詰まっています。
その中でも「仮名本忠臣蔵」の五段目定九郎の名場面は、
目に焼き付いて離れません。
黒羽二重の小袖を引っかけて、
舞台袖で本水を浴びせてから登場してくる定九郎。
鉄砲で撃たれるその刹那、
口から吐き出された真っ赤な血潮が、
白い太股にしたたり落ちます。
人が死ぬ瞬間の黒と白と赤のコントラストの見事さは秀逸です。
この役はほんの10分も舞台に出ていない小さな役なんですが、
他がかすんでしまうくらい見事な工夫になってます。
僕が見たのは中村橋之助さんの定九郎でしたが、
もう惚れ惚れするくらい格好良かったです。
この中村仲蔵というのは実在の人物で、
この役を工夫したときのエピソードが、
そのまま落語にもなっています。
まあ、これはちょっと筆舌には尽くしがたい。
機会があったら是非本舞台を見ることをお勧めします。