ファズ・ギターが全編を支配したジャズとロックの融合した独自性のあるサウンド /水谷公生 | ハードロックは我が人生そのもの

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70年代のハードロックはバンドによる個性もあって、独特なサウンドを創り出しています。その中で特に印象に残ったバンド、あるいはこれだけは是非聴いて欲しいと思えたアルバムを、これから随時紹介していきたいと思います。

KIMIO MIZUTANIは60年代におけるGSバンドの中では、ダイナマイトやモップスなどと並んで、比較的R&B色の濃いロック・スピリットを持ったバンド、「アウトキャスト」に在籍した事で知られるG奏者。GSブームがやがて去りニューロックへとサウンドが変化して行く中、ほとんどのGSバンドが解散を余儀なくされたが、その後ソロ・アーティストとしてこの邦題「宇宙の空間」を71年にデビュー作としてリリースした、それが唯一残されたこのアルバム。

そのバックを支えるメンバーは当時における名立たる面子ばかり揃えたもので、オルガン・プレイヤーは後にソロ・アルバムもリリースした、セッション・プレイヤーとして活躍している柳田ヒロ、ピアノにはジャズ・ピアニストの佐藤允彦で、他にDs及びBs奏者を加えた布陣。

その内容は全楽曲インスト構成としたVoレスのアルバムで、主役は最初から最後まで変化に富んだGスタイルで弾き倒す水谷本人。そのG奏者としてのルーツは放つリフやフレーズ、あるいはワウ・エフェクターの多用から明らかにブルースに根差されたギタリストと言えようが、歪んだファズ音で迫るBs奏者を除けば、バックを支える布陣がどちらかと言えばジャズ系奏者で、インスト中心のアルバム作りをすれば、自ずとこういった少しフリーキーにも映るアヴァンギャルドなサウンドになる事を予想したアレンジと思われる。とにかく一つ間違えればイージーリスニング・サウンドとなり兼ねない楽曲を、アレンジによってヘビィ且つハードに、そしてジャズ・ロック的にまとめ上げた力量は当時としては特筆もの。ただギタリストとしての技量はまだ荒削りなるが故に、クラプトンを代表とする著名なギタリストの域には達していないが、そのエモーショナルでタメの効いたGサウンドは、自身がリスペクトして止まないP・コソフにも通じる一音一音を大事にした魂の籠ったもので、所謂バンド・アンサンブルを楽しむ為のアルバム。

全体的にそのサウンドはジャズとロックが融合したもので、G奏者やBs奏者によるヘビィなファズ音は明らかにハードロック・テイスト。それが故に普通に言えばプログレッシヴ・ロック、あるいは無国籍ハードロックという事になるのかもしれないが、本人の世界観が素直に楽曲に反映された、当時においても今でも唯一無二のアルバムといった処。

                         

 

このアルバムにおけるアナログ盤は、レコード・コレクターの間では世界を股にかけて相当な高値で取引されており、自身を含めた単純に聴くだけを目的としたファンの方には、かつてはハードルが高すぎたアルバムの一つになっていたのですが、今は日本盤CDも再発を繰り返しており、新中古を問わず安価で容易く入手可能となっています。マニアと呼ばれる方々においての知名度の方が先行している感は否めないのですが、どちらにしても是非一度聴いて頂きたいと思える一枚で、お薦め出来るアルバムといった事だけは確かです。