「パンおばあちゃん!早くカレー作ってね」
悟空はソファーに座りながら、笑顔で言った。
「もうすぐできるからテレビでも見て待っていておくれ」
パンはグツグツと音を立てる鍋を見ながらそう言った。
熱いな……と頬に垂れる汗を拭い、火を強火にして煮込み始める。
「分かった」
悟空は机の上にあるリモコンを取りテレビの電源をオンにした。
テレビでは漫才をやっており悟空はそれに食い入るようにみてしまった。
「ってなんでやねん!」
「ははははは」
芸人の突っ込みと悟空の笑い声が聞こえる空間は平和としか言い表せなかった。
パンはその光景を見てほほ笑む。
「悟空……すまないねぇ」
パンは顔を背け、一瞬で悲しい表情へ変わる
だれにも聞こえない声でそう呟き、再びカレーを煮込む。
「パンおばあちゃんこのテレビ面白いよ!」
「そうかい……また後で見るからね」
パンの言葉を聞いた後またすぐに悟空はテレビに釘付けになった。
パンの額には汗が滲み呼吸も荒くなるが悟空はテレビを見ており気付かない。
鍋がグツグツと音を立てた。
「そろそろ上手く煮たった頃かねぇ……」
パンは鍋のふたを開けようとする。
グワァァァン
と大きな音を立て鍋が床に転がる。
鍋の中からカレーのルーが零れ、辺りはルー塗れになる。
その音に気がつき悟空視線を台所に写す。
「ああ! カレーが! パンばあちゃん何してるの!」
悟空は少し機嫌を悪くし、焦る表情でパンへ近づく。
悟空がパンの傍に来た時パンが小さな声で力無く言った。
「悟空……ごめんよ……」
息苦しそうに、険しい表情でそう言う。
パンはその言葉を言い終えると同時に呼吸は荒くなり、その場に倒れ込んだ。
「パ・・・パンばあちゃん!?」
悟空が慌ててパンの隣に座る。
「ハァ、ハァ、ハァ」
パンの呼吸数は増え続け苦しそうだが、小さな声で「悟空……悪かったね」と言い続ける。
「パンばあちゃん何!?」
「悟空……お前はおじいちゃんみたいになれるんだよ……勇気さえあればね……」
そう言ってパンは目を瞑った。
「嫌だよ! パンばあちゃん! また組み手してよ! キャッチボールしてよ!」
悟空の叫びも虚しくパンは目を瞑ったままだった。
涙ぐみ、溢れる悲しみは止まらず涙が溢れ出す。
胸を押さえて多少気持ちが和らいだ悟空は、電話にかけよりすぐに救急車を呼んだのだった……。