開京の夏の初め。

 

 

 

 

 

商いに精を出す者、道端で話し込む者、見世物小屋に集まる人々。

笑い声、歓喜の声、威勢のいい掛け声、子供達のはしゃぐ声、鳥や動物の鳴き声、太鼓や笛の音色。

陽が延びたせいか、夕刻になっても街の通りは人で賑わっていた。

そんな様子を見渡せる街の一角に姿を現した人目を引く女人。

 

「医仙様、ここです、ここ。」

 

女人に向かって手を振る三人。

それに応えるように紅い髪の女人も精一杯手を伸ばし、ブンブンと大きく手を振って近付いて来る。

 

「お待たせ~」

ウンスはに少し息を切らしながら、それでも上機嫌で大柄な女性の隣に腰を下す。

「医仙様、遅かったですね。」

「うん、王宮を出るのに手間取っちゃって。」

「やっぱり。」

そう言って、顔を見合わて笑うオンニたち。

ウンスの隣に座る大柄な女性はオ・ヨンジャ、古参の女官だ。

そのヨンジャの向かいに座る小柄な女性は新人女官のキム・イナ、そしてその隣に座るのは武閣氏のソン・ボア。

ひょんなことからウンスと仲良くなった三人、身分や役職の垣根を超え、今では一緒に食事や酒を飲み交わす仲だ。

 

「やれ王宮の外へは出るなとか、護衛を連れて行けとか、うるさいったら。」

「そうだと思いました、医仙様も大変ですね。」

「そうなの、融通の利かない堅物なんだから.....まあ面倒な話は置いといて、さあ乾杯しましょう。」

「はい!」

 

ウンスの音頭で杯を交わす女人達。

美味しそうな料理が運ばれてくると、待ってましたと話を切り出したのは、人懐っこい笑顔が魅力のイナだった。

「医仙様、ここは今都の女人に評判の店なんですよ。」

「へえぇぇ、」

確かに隣のテーブルにも、その隣のテーブルに座っているのも女性ばかり、人気の店だと言うのは頷ける。

だが酒は特別美味しいという訳ではない、料理も普通だ。

人気の理由が分からない。

 

「医仙様、下ですよ、下。」

酒を片手にニヤニヤ笑っているのはヨンジャ、ウンスより五歳ほど年上で、身体も性格も豪快な四人のリーダー的存在だ。

「下?」

ウンスは誘われるまま窓から眼下を見下ろす。

彼女達が座っている場所は市場のど真ん中、いわゆるメインストリートに面した一等地。

店の前の通りには大勢の人の姿があった。

「医仙様、ほら、あの殿方を見てください。」

酒もつまみもそっちのけで、通りを歩く人々を目で追うイナ。

「殿方って?」

山菜をもぐもぐ噛みながらソアの視線を追うウンス。

イナの言う殿方とはあの派手な着物を着た、いかにも金持ちのボンボンといった男だろうか。

 

「う~ん、お金は持っていそうだね、容姿もまあまあか........中の上ってとこかな。」

そう言うと、ヨンジャは器に入った酒を一気に飲み干す。

「いえいえ、上の下くらいはいきません?私、運命を感じそうなんですけど.」

男を見つめて頬を染めるイナ。

「いや、中がいいとこだね、なあボア?」

ちょっと冷たい感じの美女のボア。

普段はウンスの護衛、普段から大人しく、自分から話し掛けることはあまりない。

それでも今日は酒の勢いがある。

 

「下の下....」

 

「はあ?下?えらく厳しいな評価だね、根拠はなんだい?」

納得できなと言った様子のヨンジャ。

 

「妻あり、借金あり、おまけに妾あり........」

 

「げっ!」

手に持っていた器を落としそうになるヨンジャ。

「うそ...私ったら男を見る目が落ちたわ。」

悔しそうに何の関係もない男を睨むイナ。

「先日、あの男が借金取りに追われてるのを見かけました、それから妾の家に逃げ込むところも、その後、妾の家にあの男の妻が乗り込んできて修羅場に...」

いつもより口が軽やかなボア。

「は...そりゃ最悪だわ。」

そう言いながら、ヨンジャは器になみなみと酒を注ぐ。

 

三人のやり取りをポカンと口を開けて見ていたウンス。

 

「ねえ、中とか下とか、さっきから何の話?」

 

そんなウンスの問いかけに顔を見合わせた三人だったが、それはほんの一瞬で、次の瞬間にはケラケラと笑い出していた。

 

「医仙様、ここは私達のような独身の女人が殿方をじっくり観察出来る場所だと評判の店なんです。」

「そうそう、誰が始めたか分からないんですが、噂が広まって、ほら周りを見てください、皆窓の外を覗いているでしょう?」

言われて周りを見渡せば、確かに若い女性ばかりだ。

頬染めて道を歩く男性を見てるかと思えば、キャーとか悲鳴を上げながら手を叩き合ったり、立ち上がって走り出す女性もいる。

「どこへ行くのかしら?」

走り去る女性を目で追うウンス。

「きっと運命の相手を見つけたんですよ。」

そう言って、ニヤニヤ笑いな窓の外を眺めているイナ。

案の定、店の外に出た女性は道を歩く一人の男性に声を掛けていた。

 

「上手くいくと思う?」

「さあ、運命の相手なら....」

「そうですね、運命の相手なら大丈夫でしょう。」

呆然とするウンスを横目に三人は愉快そうに杯を交わす。


 

「ねえ、えっと....この店が女性に人気な理由って、窓から運命の男性を見つける.ことが出来るから.....で正解?」

 

 

やっと状況が呑み込めたウンス。

そして瞬時に歓喜の声が上がる。

 

 

「正解です、医仙様!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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