「チュンソクさん、あとどれくらい?」

ウンスは自分の前で馬を操る男の背に話し掛ける。

「はっ、あと一時ほどかと、お疲れでしょう、寒くはございませんか?」

「ううん平気、お天気がいいから。」

そう言うと、彼女は茜色に染まり始めた空を見上げた。

乾いた冷たい風が、時折真っ赤な木の葉を舞い上がらせ、彼女の足元を彩る。

黄色や赤に染まった林は、まさに秋を絵に描いたような情景だった。

チュンソクの実家は、開京からさほど離れていない町だったが、それでも馬で丸一日。

旅に慣れないウンスには堪えるだろうと、かなりゆっくりしたペースで進んでいる。

だから周りの景色を楽しむ余裕があるのだが、さすがに日が西に傾き始めると焦りだす。

「ねえねえ、少しペースを上げ・・じゃなかった、早く走らない?このままじゃ日が暮れそうだわ。」

「はあ、ですが、大丈夫ですか?」

チュンソクは心配そうに背後のウンスの顔をチラリと見た。

「平気平気、行きましょう。」

「分かりました、もし辛くなったら言ってください。」

「ええ。」

ウンスの返事を聞くと、彼は後方のテマンに目で合図を送る。

テマンは頷き、自分の馬の腹を蹴った。

すると、それに感化した様にウンスの馬も勢いよく走り出す。

「きゃ。」

一瞬驚いたウンスだったが、馬から振り落とされないよう必死に手綱を握りしめた。

三頭の馬は真っ赤な紅葉を舞い上げて進む。

その紅葉の負けないほど美しい、天女を運んで・・

 

 

 

「大奥様の具合はどうだ?」

「あまり良くはないようだ、看病されている奥様もお疲れのご様子、大丈夫だな。」

使用人達は庭の落ち葉をかき集めながら、静まり返った屋敷の奥を心配そうに見つめていた。

「若様が間に合うといいが・・」

「ああ、大奥様はチュンソク様を特に可愛がっておられたからな。」

「お役目が忙しいのだろう、期待は出来まい。」

王の側近くに仕える迂達赤。

自分達の主の一人が、その隊の副隊長。

それは使用人達にとっても自慢だった。

一方で、役目の重さも十分理解している。

いくら身内の者が病気でも、すぐに駆け付けることは出来ないと・・

「おい。」

「何だ?」

だから、突然聞こえてきた馬の蹄の音も・・

「ゲホッ、ゲホッ、な・・何も見えん。」

目の前に舞い上がる砂埃も・・

当然彼らには理解できない。

 

「はぁ、はぁ、もう・・チュンソクさんたら、早すぎる・・はぁ、はぁ」

幻だろうか・・

「申し訳ございません、つい。」

夢だろうか・・

「はぁ、はぁ、でも・・おかげで・・日が暮れる前に着いた・・わね。」

いや、人ではあるまい。

こんな髪色をした人間など見た事が無い。

背に映る夕焼けの空に溶け込むような茜色の髪。

「こんにちは。」

鈴を転がすような明るい声。

「ん?」

星のように光る瞳。

「おい、どうかしたのか?」

驚きで目を見開く使用人達は、待ち人の声にも気付かず、ウンスの姿に見入っていた。

「おい!」

「え、あ・・はい、若様、お、お帰りなさいませ。」

息を呑んだあと、裏返った声で答える使用人達。

我に返った彼らの前には、三頭の馬が大きく首を振り、荒い息を吐いていた。

業を煮やしたチュンソクは、厳しい視線を眼下の男達に向ける。

「何を突っ立ている、婆様は?」

「あ、はい、奥の部屋に。」

使用人達が慌てて視線を戻した時だった。

 

「チュンソク?」

屋敷の奥から一人の婦人が姿を見せる。

どうやら外の騒ぎに気付いて、様子を見に来たらしい。

紫色のチマに生成り色の上衣を纏った女性。

「母上。」

「えっ、チュンソクさんのお母様?」

馬から飛び降り、歩き出したチュンソク。

 

少しやつれた面差しのその女性は、久しぶりに会う息子に両手を伸ばした。

 

 

 

 

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