「まったく、お前って奴は、どれだけこの子を泣かせたら気が済むんだい!!」

丸い顔をさらに丸くして怒鳴られても。

 

「医仙の体調が悪いのは全て隊長が原因です、ですから責任を取って下さい。くれぐれも無茶はなさいませんよう。」

涼しい顔で訳の分からない責任を問われても。

 

どういう事だ?

俺が何をした?

と、疑問符しか浮かばない。

 

 

 

 

 

「テジャン?」

 

気付けば、扉の前で呆然と立ち尽くす俺の目の前にあの方がいる。

 

「どうしたの?ボーっとしちゃって。」

「いえ・・俺のことより医仙は大丈夫なのですか?」

「うん、平気・・・ごめんね。」

「医仙?」

ごめん?

 

ますます混乱するヨン。

ウンスは彼の手を恥ずかしそうに掴むと、部屋の中に引き入れた。

 

通い慣れた彼女の部屋。

真っ先に視界に入ったのは、卓の上に置かれた薬湯の器。

「やはり体調が悪いのですか?だからあのように・」

俺は慌てて彼女の腕を引き寄せた。

「違う・・あ、ううん、違わないかも・・」

怒っているのかと思えば、今は顔を真っ赤にして俯いている。

怒らせた覚えはないが・・・

「では、俺が気に障るようなことをしましたか?」

「違う・・ううん、違わないけど・・」

「医仙?」

「もう、とにかく座って。」

 

二人で寝台の端に腰をお下ろすと、ウンスは意を決したように口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「俺が妓楼通いを?」

 

「あ、それを責めてるわけじゃないの、過去を気にするほど心の狭い女じゃないわ、ただ気になって…さっき綺麗な人と親しそうに話していたから・・」

「親しそうに・・?」

「うん・・・昔の恋人?」

「こい?・・ははは・」

「テジャン?」

「ははは・・俺に通う妓生がいると?・・ははは。」

「何が可笑しいのよ?!」

 

ここに迂達赤達がいたなら、目を丸くしたに違いない。

声を上げて笑うヨンの姿を見た者などいないはずだから。

 

「ははは・・おれに・・くくく・・」

「ちょっと、笑いすぎ!!」

「いや、あまりにも・・」

「テジャン!!」

「・・・・俺にそのような女子がいたなら、叔母は心配などしなかったはず。」

「え?」

気付けば、ヨンは真剣な眼差しでウンスを見つめていた。

「あの妓生は部下の妹です。」

「妹?」

「はい、先の戦で命を落とした仲間の妹です。」

「亡くなった方の・・・妹さん?」

「はい、身寄りのない者ゆえ、先行きを心配して時々様子を見に行っていました、ですから妓楼に通っていたことは否定しません、ただ、それ以上のことはありません、それは死んだ仲間にも誓って。」

「・・・ごめん。」

「医仙?」

溢れる涙を隠すように両手で顔を覆うウンス。

「ごめん・・私ったら・・恥ずかしすぎる・・」

過去なんか気にしないって大見え切っていたのに、真実を知ったら安心している自分が恥ずかしくて仕方がない。

「医仙、顔を見せてください。」

「やだ、見ないで・・ひどい顔になってるから・・」

「俺はどんなあなたでも見ていたいのです。」

ヨンは優しくウンスの手を握った。

だがウンスは俯いたまま顔を上げようとはしない。

「顔を上げてください。」

「いや。」

「では、仕方がありません。」

そう言うと、ヨンはウンスの頬を両手て包んだ。

「いやだって・・」

有無を言わさず上を向かされたウンスは、まともにヨンと視線を合わせることが出来ず、目は窓の外に向けている。

そんな彼女の様子を見て、ヨンはフッと吐き微笑んだ。

 

「俺は不器用な男です、おそらく国一番融通の利かぬ男でしょう。」

「テジャン?」

「やっと俺の方を向いてくれましたね。」

ウンスを優しく見つめるヨン。

その瞳には一点の曇りもなかった。

「もし・・医仙が天界に帰る道を選んでも‥あなたを忘れなくてはいけませんか?一生忘れず、あなたを恋しいと想ってはいけませんか?」

「テ・・・ジャン・・」

「簡単に忘れられる想いではありません、たとえあなたが俺のことを記憶の片隅に追いやっても、俺は・・おそらく生涯あなたを忘れはしないでしょう。」

「一生・・私を・・?」

 

 

生涯、私ひとりを愛する・・

 

 

ウンスは泣き腫らした目を大きく見開いた。

 

 

 

 

 

 

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