夜明け前、少しだけ雪が降った。

おそらく春を前に、天が最後に落とした雪だろう。

それとも禁を破った俺への警告か。

再び俺の心を氷の下に閉じ込めるぞと。

 

 

「ん・・・」

抱きしめる腕の中で、あなたが窮屈そうに身を捩る。

俺は再び強く抱きしめ、あなたは俺の腕から逃れようと夢の中でもがく。

これを何度繰り返しただろう。

瞬きすら惜しい、一時でも長くあなたを見ていたい。

ヨンはウンスの甘い吐息の漏れる唇に触れ、桃色の肌に口づける。

「このまま死んでも‥」

悔いはない。

だが、もはやあなたと離れるなど考えられない。

この至福の宵を手放すなど出来るはずがない。

叔母の言葉が頭を過る。

 

「天の許しを得る前に医仙殿に許しを請え。」

 

 

それは今宵だけでなく、生涯あなたを離さぬと言う決意。

二度と天に帰さぬという覚悟。

「テジャン?」

 

夜明けの緩やかな日差しが部屋に差し込む。

ウンスは光の中に浮かぶヨンの顔を見つめた。

「怖い顔して、どうしたの?」

「起こしてしまいましたか・・ほとんど眠ておらぬでしょう、もう少しお休みください。」

「ううん、大丈夫。何かあった?」

ウンスはそっとヨンの頬に触れる。

部屋には冷気が満ちていたが、彼の頬は温かかった。

「熱がある?」

「いいえ、あなたこそ身体は大事ありませんか?」

「え、私?私は平気だけど‥」

そうは言ってみたものの、ヨンの激しい愛に包まれた身体は歓喜の悲鳴を上げている。

自分がどんな風に愛されたのか、どうやって応えたのか、正直記憶が曖昧だ。

まるで夢の中の出来事の様に、幸福が全身をふわふわと包む。

「俺はまだ熱が冷めぬだけです。」

「でも・・」

心配したウンスは身体を起こそうとするが、慌てて上掛けの中に身を沈めた。

「やだ・・裸のまま寝ちゃったのね。」

上掛けの中から恥ずかしそうに呟くウンス。

ヨンはそんな彼女の身体を愛おしそうに抱き寄せる。

「ちょっと待って・・服を着たいの。」

「このままで。」

肌と肌が触れる。

その甘い感触が、昨夜の熱い夜の記憶を呼び覚ます。

「夢みたい・・」

「俺もです。」

「いたた・・」

「ウンス?」

赤くなった頬を擦るウンス。

「夢じゃないか確かめたの、夢じゃないのね。」

「あなたというお方は・・」

ヨンは嬉しそうに笑った。

それを見たウンスは大きく目を見開く。

「あなたのそんな顔、初めて見たわ。」

「俺も人の子です、可笑しいですか?」

「だって笑わないから・・それに現代に残っているあなたの肖像画って・・やだ、思い出したら・・」

ウンスは笑いを堪えようと上掛けで口元を押さえる。

「医仙?」

「ああ、だめ・・可笑しい、はははは。」

「俺の顔がどうかしましたか?」

「違う、そう言う意味じゃなくて、あまりにも違いすぎて・・もうだめ・・くるしい・・ははは。」

「医仙?」

甘い夜が嘘のように、夜明け前の典医寺にウンスの笑い声が木霊する。

 

 

そんな彼女の声を、早朝から作業をする医員達は耳にしていた。

「医仙様の声だ。」

「ああ、朝からどうなされたのだろう。」

「さあ・・」

互いに顔を見合わせ首を傾げる医員達。

 

そしてこの後、ウンスの部屋から出てくる迂達赤隊長の姿を目撃することになる。

 

 

 

 

 

 

 

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