「最悪だわ.....」
ウンスはカーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら、二日酔いで痛む頭を抱えた。
「はぁぁぁぁ・・・・・」
目覚めてから何度目の溜息だろう。
昨日だけで一生分のストレスを抱え込んだ気分だ。
キム先輩や謎のイケメン男もだが、超イケメン貧血男には一日中振り回された。
それに二日酔いともなれば、気持ちは一気に後退、口から出る言葉は決まっている。
「仕事行きたくない...」
”有給で休みます”って、気軽に言えない自分の性格が恨めしい。
せめてキム先輩には会わないよう強力なアンテナを張って過ごすしか、気分回復の方法はないように思えた。
だが、そういう日に限って神様は意地悪をする。
「よう、ウンス。」
更衣室を出た途端、キム先輩に出くわした。
「お、おはようございます、先輩、昨日はどうも......」
逃げ出す言い訳を探して視線が泳ぐ。
どう見ても挙動不審だ。
「昨夜は悪かったな、急に帰ったりして。」
「はい?」
「あれから一人で大丈夫だったか?」
「ひとり?」
「ホントに俺から誘っておいて先に帰っちまうなんて、本当に悪かった、だが急患だったんだから理解してくれよ。」
「急患?」
ウンスにはキム先輩の話が全く理解できなかった。
「先輩、怒ってないんですか?」
「怒るって?おまえ怒ってるのか?」
「いいえ、私じゃなくて先輩がです、だってチェ・ヨンさんが来て、デートが台無しになったから...怒ってますよね?」
「チェ・ヨンて、誰だ?」
「先輩?」
「昨夜は二人で飲んでたよな?他に誰かいたか?そう言えば、誰かに話し掛けられたような・・あれ、顔が思い出せないぞ、変だな、そんなに酔った覚えはないんだが・・」
え・・
まさか、先輩も覚えていない?
同じだ・・看護師たちと。
彼と会っても次の日には忘れてしまう。
誰も彼のことを覚えていない。
「とにかく悪かったな、今度埋め合わせはするから、拗ねるなよ、じゃあな。」
そう言って、私の頭をポンポンと叩いて行ってしまったキム先輩。
「どういうこと?」
初めから変だった。
決まって私の当直の夜に現れる彼。
看護師たちも姿を見ているはずなに誰も彼を顔を覚えていない、誰一人として。
『俺は、お前に会いに来た。』
蘇る彼の言葉。
冷たい手、冷たい声。
そして血のような赤い瞳。
『血など、望めばいくらでも手に入る、だがおまえは・・』
「まさか・・」
信じられない考えが頭に浮かんだ。
「痛・・?!」
その時、ウンスの首に鋭い痛みが走る。
「なに?」
廊下の端に鏡があった。
ウンスは壁に掛けられた鏡に向かう、そして首筋を鏡に映した。
「え?」
薄っすらと残っていた痣は赤味を増している。
そして何かを形取っていた。
「これは......なに?」
ナイフで切り込んだような十字の痣。
「十字架?」
吸血鬼・・・
ウンスは鏡の前で呆然と立ち尽くし、息を呑んだ。
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