あの人は優しく抱きしめてくれた。

今まで以上に優しく、小さな命ごと私を包み込むように・・

「ずっと心配してた?」

「はい、今も心配です。」

「何故?」

夜の闇に包まれた迂達赤兵舎。

テマンやトクマンも気を利かせて姿を見せない。

久しぶりにゆっくりとした二人の時間が流れる。

一緒に寝台に横になり、互いの温もりを感じていた。

 

あなたの顔が目の前に見える。

少しやつれていたが、はにかんだだ様に微笑む顔は、初めて出会った頃と変わらない。

懐かしくなって、そっとあなたの頬に触れる。

すると、彼は私の手の甲に優しくキスをしてくれた。

「この様に細い躰に子を宿して大丈夫なのかと・・心配でなりません。」

「あら、これからモリモリ食べて太るかも、だって二人分よ。」

「そうして下さい。」

「本当?太ったら嫌いになるんじゃない?」

ウンスは眉間にしわを寄せ、疑いの眼差しをヨンに向ける。

「まさか・・」

その様な事で嫌いになる訳がない。

あなたの身体が健康ならば何も言うことはないのだ。

「あら、男の人は皆そう言うけど、いざ太ると態度が変わるわ、きっと、ああ、気を付けなくちゃ。」

一人で文句を言い、一人で納得すると、ウンスはヨンの腕の中に身体を滑り込ませた。

もぞもぞ動いていたかと思うと、静かな寝息をたて始める。

「休まれたか・・」

ヨンは彼女が寝苦しくないように、身体を少し離す。

「んん・・」

だが彼女は、自分の胸に身体を摺り寄せてくる。

そしてピタリと胸に頬を付け、満足そうに微笑んでいた。

 

愛おしい・・

 

まだ信じられない。

これは幻なのではと、何度も目を瞑る。

そして瞼を開くたびに見える彼女の姿に胸が熱くなった。

このぬくもり以外何もいらない。

あなたをが俺の人生の全てだ。

「ウンス・・」

ヨンは彼女の額にそっと口づける。

そして腕の中の温もりを優しく抱きしめ、瞼を閉じた。

 

二人だけの時間。

聞こえるのは、木々を揺らす風の音。

見守るのは、深い闇の先に輝く星々。

辛い日々を乗り越えて迎える幸福に満ちた夜。

 

だが、その異変は突然始まった。

腕の中の彼女が、急に動き出したかと思うと、スッと腕が軽くなる。

ヨンが何事だと瞼を開けば、走り去るウンスの後姿が見えた。

 

「ウンス?!」

ヨンも慌てて体を起こすが、彼女はあっという間に部屋を出て行ってしまった。

「何があった?」

彼も鬼剣を手に走り出す。

確か・・彼女は何か言っていた。

珍しくぐっすり寝込んでいたせいか、その言葉の意味が理解できない。

 

「気持ちが悪いと・・」

どういう事だ・・?

 

ああ・・どうしてこうタイミングが悪いんだろう。

あなたが心配してしまう。

なのに、彼の胸の中に戻った身体は言う事を聞いてくれない。

安心したからなのか・・

緊張が緩んだせいか・・

 

突然襲った身体の異変に、ウンス自身も戸惑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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