毎日少しずつ、風景が変わる開京。
昨日まで無かった場所に柱が立ち、静かだった路地に人の笑い声が響く。
踏まれても立ち上がる人の強さ。
互いに助け合い、手を取り合って生きる優しさ。
いま開京の街は、そんな人の思いが満ち溢れていた。
「はぁ、はぁ、マ、マンボ姐さん!」
「おやテマン、こんな朝早くからどうしたんだい?」
マンボ姐さんも街の一角に仮の店を構え、商いを再開していた。
不足している木材や食料を、豊富な人脈を駆使して、地方から搔き集めている。
それでも足りない物は、他国から仕入れる勢いだ。
スリバンの凄いところは、この機動力と人脈の広さだろう。
「あ、あれを・・あれが欲しいと・・」
「あれ?なんだい、あたしゃ忙しいんだ、くだらない物だったら他所に行っとくれ、あ、その荷物はこっちだよ。」
相変わらず上手く話せないテマンを、マンボ姐さんは相手にしなかった。
ヨンの使いで来たのだろうが、王宮の手助けをするつもりはない。
彼女にとっては開京の街の復興が最優先だ。
「だ、だから・・あの・・わっ!!」
次から次へと運ばれる荷に、テマンは突き飛ばされた。
「おい、ボヤッとしてると潰されるぞ、暇なら、お前も手伝えよ。」
呆然としていると、肩に荷を担いだジフに肩を叩かれる。
「ひ、暇じゃない、俺は上護軍の使いで来たんだ!お、奥方様が・・」
「ウンスが?」
マンボ姐さんの筆を持つ手が止まった。
「えっと・・奥方様の為にマンボ姐さんに頼みたいことがあると・・」
「ウンスのため?何だい、わざわざお前を使いに寄こすんだ、大事な用なんだろう、言ってごらん。」
ウンスの名を聞いた途端、態度が一変するマンボ姐さん。
周りの男達は呆れ顔だ。
「そ、それが・・クッパが欲しいと・・」
「はあ?クッパ?!」
ジフが呆れた様子で叫ぶ。
「その・・奥方様に食べさせたいからと・・上護軍が。」
「おいおい、王宮には真面な料理人がいないのか?クッパなんか誰でも作れるだろう?」
ジフの軽い言葉は、当然マンボ姐さんの怒りに触れ。
「ほぉぉ・・誰でも作れるのかい?あたしのクッパは。」
「あ、いや、姐さんのクッパは別だよ、高麗一だからね。」
「当たり前だろう。」
「ははは・・」
マンボ姐さんの鋭い視線に、ジフは慌てて機嫌を取っている。
「ウンスがクッパを食べたがっているのかい?」
「あ、ああ、その・・あれだよ、えっと・・」
「悪阻かい?」
「そう、つわりだ!奥方様が辛そうで、見ていられないと・・」
「おやおや、ヨンの元に戻ったら安心したんだろうね、赤ん坊がわがままになったもんだ。」
そう言いながらも、マンボ姐さんは嬉しそうだった。
「さてと、じゃあ特製のクッパを作ろうじゃないかい。」
「えっ!商いは?!」
今まで目くじらを立てて銭の勘定をしていた彼女が、突然ヘラを持ち出した。
驚いたのは肩に荷を担いだ男達だ。
自分達には話をする暇があったら荷を運べと、容赦なく蹴りを入れるくせに・・
「何だい?赤ん坊以上に大事なことがあるかい、文句があるなら言ってごらん?」
「いえ・・ありません。」
言えるはずがない、赤ん坊の誕生を心待ちにしているのは自分達も同じだ。
あの武神と天女の子。
やがて誕生する赤ん坊が、高麗の希望の光に思える。
子供が誕生する頃には、元の開京の街並みを取り戻そうと、心に誓った男達だった。
「あのね、ヨン。」
「はい、まだお辛いですか?」
「ううん、今は平気、だから部屋に戻ってもいい?」
「駄目です。」
「でも・・」
落ち着かない。
ここは王様の執務室。
彼は王様の書卓ではなく、重臣達が座る卓に腰を下ろし、次々運ばれてくる書簡に目を通していた。
私はその隣に座っていたが、部屋を訪れる内官や重臣達の視線が痛い。
彼らにしてみれば、私は戦の前に離縁した妻だ。
ヨンの傍ばいること自体、腑に落ちないのだろう。
だが彼は自分を傍から離してくれない。
今朝の出来事が、よほどショックだったのだろう。
「ああ、吐いたりしなければよかった・・」
「何か言いましたか?」
「ううん、何でもない。」
ウンスは深い溜息を付いた。
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