戸惑う彼の顔を見つめる。
窓の隙間から入る夜風が、部屋の灯火を揺らしていた。
何か言いたげな唇。
心配そうに自分を見つめる瞳。
ああ・・そうだった。
この人はいつも自分を押し殺し、感情を表に出さない。
分かってはいたのに、なぜ不安になったのだろう。
「きっと妊娠したせいね・・」
「不安にさせましたか?」
「ん・・少し・・」
あなたが出来ない分、私は素直に言葉に出そう。
彼を不安にさせたくないし、自分も不安になりたくないの。
だって私が正面からぶつかれば、あなたは逃げられないでしょう。
そして、あなたの心を真っすぐ見つめるわ。
だから私には話して欲しいの。
不安なこと、戸惑うこと、苛立ちも・・そして悲しい思い出も・・
二人は兵舎の部屋で、寝台に腰を下ろしていた。
この部屋に椅子や卓はない。
あるのは簡素な寝台のみ。
「驚いたのです。」
「ん・・分かってる。」
「望んでいたことです、噓ではありません、あなたに俺の子を産んでほしいと・・ただ・・」
「ん・・それも分かってる。」
私も望んでた。
心の底から願ってた。
あなたの子供が欲しいと・・
「ただ現実になると怖くなりました。」
「怖い?」
「はい、幼い頃の母の姿を思い出して・・」
「お母様の?」
「俺の母は、俺を産んでから床に臥せてしまわれた、そして、まともに起きる事も出来ず、そのまま・・・ですから、素直に喜べなかった。」
「そう、辛かったわね・・」
ヨンは苦しそうに唇を噛み締めた。
今まで、自分を産んだせいで母親は逝ってしまったのだと思い、苦しんでいたのだろう。
その為に父親も背を向けたと・・・
「ヨン。」
「はい。」
「手を・・」
ヨンが戸惑っているのが分かる。
だから私は彼の手を優しく握った。
「ねえヨン、抱きしめてあげて。」
あなたの不安を取り除いてあげたい。
そして、この子にも伝えたいの”あなたのお父様よ”って・・・
俺は初めて我が子に向かい合った。
震える手で、我が子の宿る場所に手を触れる。
そして彼女のお腹に触れた途端、力強い何かが俺の中に入ってきた。
「ねえ見て、ヨン?!」
目を丸くしている彼女以上に、俺は驚いていた。
俺が触れたところから、蒼白い光が沸き起こる。
「凄い・・きっと、あなたが分かるのよ!」
興奮した彼女の声。
そして震える俺の声。
「・・会いたいと・・」
「えっ?」
「俺に会いたいと言っています。」
「え、それって、この子が?」
ウンスは自分の腹を指差して、ますます目を丸くする。
「はい、あなたにも早く会いたいと、そして嬉しいと・・」
「うそ、やだ、どうして・・?」
喜んでいるのか、戸惑っているのか分からない。
彼女は両手て口元を抑え、目に涙を浮かべている。
「ウンス?」
「ヨン・・戻ってくるから、あなたが失くしたものは、必ず戻ってくるから・・」
彼女の言いたいことが何か、俺はおぼろげに理解した。
「はい・・」
「取り戻そう、失った温もりを全部・・」
彼女の言葉を聞いて胸が熱くなった。
俺の母や父も、俺の誕生を、こんな風に待ちわびたのだろうか。
戸惑いや不安。
そんな気持ちを全て打ち消すほどの感動と興奮。
俺の胸にも、言葉に出来ない喜びが湧き上がる。
あなたと俺、そしてまだ見ぬ我が子。
今まで想像出来なかった、幸福に満ち溢れた日々を思い描く。
きっと彼女と二人なら叶うだろう。
家族の温もり、生きがい、そして守りたい大切なひと・・
その全てを取り戻すことが出来る。
あなたに伝えたい。
「ウンス、ありがとう・・」
そして待ちわびる我が子にも伝えよう。
早く、お前に会いたいと・・
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