どれくらい経っただろう。
ゆっくり流れた時間が、兵舎の窓から覗く空を赤く染める。
「では、どうやって天界に戻られたのですか?」
「ん・・それは分からないの、気が付いた時には病院のベットの上だったわ。でも、どうやって此処に戻って来たかは覚えてる。」
「それは・・あの男が?」
ヨンの胸に顔を埋めていたウンスは、驚いて顔を上げた。
「知っていたの?ウォンが天門に繫がっていると・・」
「いえ・・確信はなかったのですが、天門をくぐらずにあの男は此処に現れた、もしかしたらと・・」
でなければ、あなたを委ねはしなかった。
天門まで辿り着ける保証もなく、あなたの命の炎が消えようとしている時。
とっさに頭に浮かんだ身を裂かれるような辛い決断。
「よく無事で・・」
ヨンは腕の中のウンスを力の限り抱きしめた。
「ただいま、ヨン。」
まるで、今朝別れたばかりの様に彼女は満面の笑みで答える。
結局、俺は何も出来なかった。
今度も彼女は自分自身の力で乗り越えた。
「あら皆のおかげよ、王様や王妃様、マンボ姐さんや迂達赤の皆、それからえっと・・あっ・・」
彼女は大きな瞳を輝かせ、啄むように唇を動かす。
俺は堪らず己の唇を重ねた。
「もう、話したいこと沢山あるのに・・」
頬を染めて俺の胸を叩く彼女。
その仕草が愛おしい。
「それでね、大手術だったのよ、記憶がなくなったのは怪我のショックらしいけど・・それから・」
その声が愛おしい。
「もう、だから話が出来な・ん・・」
口を開くと、彼の口づけが落ちてくる。
隙を窺っているのか、頬が触れるほど近くに彼の顔があった。
「ちょっと、近い・・話、聞いてる?」
「後で聞きます。」
「後って・・」
言っている傍から口を塞がれ、ウンスは焦りだした。
まだ肝心な事を話していない。
一番大切な事を伝えなければ。
だが次第に深くなる口づけに、言葉どころか息をするのもままならない。
「まって・・ちょっ・・と・・・」
必死に彼の胸を叩いて話を切り出そうとする。
「まだ拒むのですか?」
「違う、そうじゃなくて・・んっ・・」
駄目だ。
シチュエーションが整い過ぎている。
陽が沈み薄暗くなりかけた部屋。
二人っきりの状況。
扉の鍵は?
閉めちゃった・・
まずい、このままじゃまずい、絶対にまずい・・
「ヨン・・だ・」め・・
言葉が続かない。
口を開くと、すぐに彼の舌が入り込んでくる。
そして予想通り・・寝台に抱き上げられた。
「ヨン?!」
「ウンス・・」
ヨンは真上から熱い瞳で見つめる。
一瞬見とれて、ウンス自身も夢心地に酔いしれたが・・
彼の手が着物の紐に掛かった時。
「駄目だってば!!」
「何故です?」
彼は私が恥ずかしさで抵抗していると思っているらしい。
一向に手の動きは止まらない。
逆にウンスの頭は冷静さを取り戻していた。
「もう・・」
バチ―――ン!!
「駄目だって言ってるでしょう!!」
鋭い音と共にウンスの怒鳴り声が響く。
「ウンス・・?」
何が起こったのか分からず、ヨンは石のように固まっていた。
そんな彼に向かって、ウンスはやっと伝えたい言葉を口にする。
「はぁ・・はぁ・・赤ちゃんが・・お腹にあなたの赤ちゃんがいるのよ。」
私を抱きしめていた腕は動かない。
まるで時間が止まったように、微動だにしなかった。
「ヨンァ?」
そして大きく見開いた瞳がじっと私を見つめている。
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