「どうして俺は此処に?」
「あなたは倒れたのよ、覚えていないの?」
「倒れた?」
倒れた、この俺が?
そう言われれば、典医寺からの記憶が途切れている。
あの男の胸ぐらを掴んだところまでは覚えているが・・
「倒れてから丸一日寝ていたのよ、その間、手を放してくれなかったから、私も一緒に横になるしかなくて、見て。」
彼女は言葉では迷惑そうに言いながら、嬉しそうな顔で赤くなった手を俺に向けた。
「あの男は・・」
「え、ウソンさん?王宮は嫌だと言って街に戻ったわ、ヨン、ちょっと脈を診るわね。」
そう言ってヨンの手首を掴もうとしたウンスだが、その手は彼の大きな手に強く握られた。
「ヨンァ?」
「あなたは・・あの男のものになったのか?」
鋭い視線が彼女の瞳を刺すように迫る。
握る手は骨が折れるのではないかと思うほど強い。
「痛い、ヨン・・あなた誤解しているわ、ちゃんと説明するから聞いて。」
「説明?あの男との経緯ですか?そんなものは聞きたくない!」
「ヨン?!」
ヨンはウンスを抱き寄せると、力の限り抱きしめた。
誰にも渡すものか。
あなたは俺だけの人だ。
あなたを奪う男がいるのなら、たとえ何者であろうと八つ裂きにする。
「ちょっと・・ヨン、苦しいわ・・」
ジタバタと暴れるウンス。
だが動こうとすればするほど、抱きしめる彼の力は強くなる。
「あなたは俺のものだ、俺だけのものだ!」
この細い肩も・・
茜色の髪も・・
甘い花の香りも・・
柔らかい肌も・・
全て抱きしめるのは俺だけ。
他の男が指一本触れるのも許さない。
あなたの息一つも逃しはしない。
「ヨ・・!?」
突然、嵐の様な口づけがウンスを襲った。
譫言の様な言葉を繰り返し、ヨンはウンスの唇に喰らい付く。
「ヨン・・やめ・・」
「誰にも渡さない!」
「ヨン!!」
苦しい息の中で、ウンスは叫び声を上げた。
必死に彼の胸を引き離す。
「ウン・・?」
彼女のあまりの剣幕に、ヨンは茫然となった。
「はぁ、はぁ、もう、いい加減にして、嫉妬は嬉しいけど、私の話もちゃんと聞きなさい!」
まるで駄々っ子を諭す母親だった。
「思い込み?」
「ええ、そうよ、ウネは父親が連れてきた女性を母親だと勘違いしただけなの。」
「では・・」
「そう、私とウソンさんは何もないわ。むしろ彼は恩人よ、彼に会わなかったら、どうなっていたか・・」
ウンスの話を聞いて、ヨンは大きく息を吐いた。
「だから、ウソンさんにちゃんとあやまってね。」
「あなたという方は・・」
「えっ?」
後先考えずに、この国に飛び込んできたのか。
もし敵の手に落ちていたら、今頃どうなっていたか。
「もう心臓が持たん、やめてくれ。」
「だって・・考えていたら、あなたのところに戻れないでしょう?一か八かに掛けるしか・・」
「怖くはないのですか?」
「そりゃあ、怖かったわよ。」
「じゃあ、なぜ…?」
「だって、あなたに会えない方が、もっと怖かったんだもの!」
「ウンス?」
ウンスは瞳いっぱいに涙を浮かべた。
口を真一文字に結び、泣き出したいのを必死に耐えている。
「嬉しくないの?私が戻って来て迷惑?」
「まさか・・」
今だに信じられない。
こうしてあなたの顔を見つめていることが。
「じゃあ怒らないで。」
「怒っているのではありません。」
「だって、顔が怖いわ。」
「元々このような顔です。」
「ん。」
笑えと言わんばかりに、彼女は指で自分の口元を上げた。
懐かしいあの日のように・・
心配が先に立って、どうしても素直に感情を表せない。
そんな俺の事を分かっているのか、彼女はあえて言葉にしなかった。
今は彼女の勇気に、そして彼女を護ってくれた全てのものに感謝したい。
「ヨンァ・・抱きしめて。」
「はい。」
ヨンはウンスにそっと手を伸ばした。
ウンスは嬉しそうにその腕の中に飛び込んで来る。
春のぬくもりが、再び俺の腕の中に戻ってきた。
永久の春が俺の腕の中に・・
ヨンは狂うほど焦がれたウンスのぬくもりを全身で感じていた。
そして彼女の身体を優しく抱きしめ、柔らかな髪に指を絡める。
ウンスも満足そうにヨンの胸に顔を埋めた。
やっと戻って来る事が出来たという安堵感。
そして二度と彼から離れはしないと、固い決意でヨンの背中を抱きしめる。
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