俺は長い夢を見ていた。

光の渦の中。

馬のない馬車。

箱の中で動く人々。

 

そして赤い髪の女人・・・

 

目が離せなかった。

くるくる動く大きな瞳、花弁を思わせる艶やか唇。

光に照らされ輝く白い肌。

一瞬、胸がしめ付けられるように痛んだ。

そして、かつて経験した事のない高揚感に襲われた。

 

迷いはなかった。

彼女だ。

彼女しかいない。

高麗を救う天医は・・

 

泣いて離してくれと叫ぶ彼女。

どうしてあの時、離せなかったのだろう。

なぜ彼女だったのだろう。

いくら考えても分からない。

ただ俺の心が求めていたのかもしれない。

 

あなたが欲しいと・・

 

だが、どんなに長い夜が続こうと、夢はいつかは覚める。

彼女を抱く甘美な夜も、日が昇れば血生臭い戦の現実へと引き戻される。

腕の中に囲ったぬくもりも、手放さなければならなかった。

 

離したくない・・

 

たとえ冥府の神に逆らっても離したくはない。

あなたを手放さずに済むのなら、この身は喜んで死神に差し出そう。

でも・・あなたを一人で闇に送り出すことは出来ない

この心が引き裂かれても・・

二度と光を見る事が叶わなくても・・

あなたを一人で逝かせることは出来なかった。

 

すまない、ウンス。

この世の何よりにも・・あなたを愛してる。

あなたは俺の人生の、たった一つの光だ。

きっと、この先の人生は闇に包まれるだろう。

 

だから許して欲しい。

意気地のない俺を・・

 

 

 

 

 

 

「いいわ、許してあげる。」

「えっ?」

 

目の前に彼女の顔が見える。

これは夢の続きか・・?

変わらぬ大きな瞳。

への字に曲げた唇。

眉間にしわを寄せ、難しい表情をしていた。

「ん・・熱は下がったみたいね。」

俺の額に冷たい彼女の手が触れる。

彼女の手の間から、天井の湾曲した柱が見えた。

「ここは俺の部屋か?」

「そうよ、あなたの昔の部屋。」

「昔?」

「やだ、寝ぼけてるの?よいしょっと・・」

掛け声と一緒に彼女は身体を起こした。

「ふう・・やっぱり二人で横になるには狭いわね。」

そう言うと、俺の隣で着物の襟を整えだす。

 

ここは迂達赤兵舎。

そして二人がいるのは、狭い寝台の上。

「あなた、丸一日寝ていたのよ、喉が渇いたでしょう、水を飲む?」

「何があった?あなたは・・」

呆然とする俺の顔を愛らしい瞳が覗き込む。

「覚えていないの?あなた、倒れたのよ。」

「倒れた?いつ・・どうして此処に居る?」

「やだ記憶喪失?ドラマみたいね、熱で頭の回路が上手く繋がらなくなったのかしら?」

そう言うと、愉快そうに笑う女人。

それから訳の分からない言葉を並べ出したが、俺の頭はまだ混乱していた。

「・・でね、ウソンさんの顔が腫れて大変・・」

「ウソン?」

その言葉が鍵になった。

記憶が滝の様に頭の中に流れ込む。

 

天界。

あなたを攫った夜。

毒に倒れた姿。

あなたを待ち続けた日々。

そして再会した丘。

あなたを初めて抱いた夜。

あなたを娶った婚儀の日。

そして赤く染まった夜空。

血塗られた姿。

そして、あの男の横に立つあなた・・

 

「夢じゃない・・」

ヨンはゆっくり身体を起こした。

そして目の前に座る彼女の顔を見つめる。

 

「ウンス・・あなたか?」

「ええ、ヨン。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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