「ウンス・・・」
深い闇が消え去り、明るい光が体を包む。
窓から差し込む日差し、小鳥の囀り。
ヨンの意識が一気に現実に引き戻された。
「はぁ・はぁ・・夢か・・」
額から流れる汗を手で拭うと、ヨンは辺りを見渡した。
「ここは迂達赤の・・」
一瞬、自分がなぜ此処に居るのか分からなかった。
重い身体をゆっくり起こし、朦朧とする頭で記憶を遡る。
「確か・・」
開京の街でトクマンとテマンを見かけた。
それから屋敷の門の前で・・
そうだ、マンボ姐さんが何か言っていたが、何の話だっただろう。
ああ、ハルが街の者達の世話をしていた。
それから屋敷の奥に向かい、そこで・・
「俺は幻を・・」
いや違う、彼女を見た、あの方を抱きしめた。
「あれは全て夢だったのか?」
ヨンは自分の手の平を見つめる。
微かに残る花の香、そして彼女のぬくもり。
「夢じゃ・・ない?」
「上護軍、気が付かれましたか?」
部屋に入って来たトクマンは嬉しそうにヨンに駆け寄る。
「トクマン、どうして俺は此処に居る?」
「えっ?あ、はい、倒れた上護軍を俺達が兵舎まで運びました。」
「倒れた、俺が?」
「はい、ウソン隊長と争っている時に、覚えていらっしゃらないのですか?」
「ウソン・・争う・・?」
そうだ、俺はあの男が死ぬほど憎かった。
いや、八つ裂きにしても飽き足らない。
何故だ・・
何があった・・
なにが・・
「トクマン・・」
「はい。」
「あの方は何処だ?」
トギは薬草園で顔を顰めていた。
枯れた草花に手をかざし、悔しそうに唇を噛み締める。
放置された薬草園は見るも無残な姿に変わっていた。
そして、まともな医療器具も残っていない典医寺では、ウンスがある男の手当をしている。
「ん・・瞳に傷はないと思うけど・・腫れが引いてみないと何とも言えないわね。」
「そうか・・」
ウソンは大きく息を吐いた。
「痛む?」
ウンスは濡らした手拭をウソンの頬に当てる。
「当たり前だ、あの男の拳をまともに喰らったんだぞ。」
「ごめん・・」
「謝るな、お前が悪い訳じゃない、だが俺まで王宮に連れて来ることはなかっただろう?」
「だって、こうでもしないと二人同時に診られないでしょう?あ、ウネのことは心配しないで、ハルさんとマンボ姐さんに頼んで来たから。」
「ああ・・」
だがウンスは、彼の腫れあがった顔を見るたびに笑みがこぼれる。
「おい、そうあからさまに幸せそうな顔をするな。」
「だって・・」
”俺のもの”
”お前などに渡すものか”
彼の言葉が耳から離れない。
二人が争っていた時は、訳が分からず動揺していた。
だが今になって、あれは彼の激しい嫉妬だったと思うと嬉しくて仕方がない。
「地に足が付いていないみたい・・・ふわふわした気分でドキドキが止まらないの・・私変かしら?」
「ふん、結局俺は痛い思いをしただけだ。」
「あ、本当にごめんなさい。」
「だから謝るな・・まあいい、お前にしたことを考えたら、これくらいで済んでよかった。」
そう言うと、ウソンは腫れた顔で精一杯の笑顔を作った。
だが・・
「彼女に何をした・・?」
「えっ?!」
背後の扉の前に立つ長身の男が、部屋の中に黒い影を落とす。
いや立つと言うより、扉に手を掛け、やっと身体を支えている状態だ。
「はぁ、はぁ・・きさま、この方に何をした?」
「ヨン?」
苦しそうな息を吐き、額に滲んだ汗が頬を伝う。
ヨンは剣を杖代わりにし、倒れそうな身体で二人に近付いて来る。
「ヨン、起きちゃダメじゃない!」
ウンスは慌ててヨンに駆け寄る。
そして彼を支えようと手を伸ばすが、その手は逆に強い力に引き寄せられた。
「ヨン?!」
「はぁ、はぁ・・あの男はあなたに何をした?はぁ、はぁ・・許さない、絶対に・・あなたは俺のものだ、俺だけの女だ、他の男になど渡すものか!」
「あ・・」
ドクン、ドクン・・
どうしよう・・
どうすればいい・・
身体が震える
体中の血が凄い勢いで流れ出した。
心臓が爆発しそう・・
だめ、胸のときめきが・・もう止まらない。
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