「奥様。」
騒ぎを聞き付け、ハルも姿を見せる。
「ハルさん、ねえ二人を止めて。」
「旦那様?」
目の前で戦う二人の男。
だがハルも止めようとはしなかった。
「久々だねぇ、あいつのこんな顔は。」
「マンボ姐さんったら、そんな呑気なこと言わないで。」
慌てているのはウンスだけだ。
マンボ姐さんだけじゃない、ハルもトクマンもテマンでさえ、嬉しそうにヨンを見ている。
「ねえ、怪我をしたら大変よ。」
「心配ないよ、ヨンは手加減しているさ。」
「えっ?」
「あいつが本気なら、ウソンはとうに切られてる。まあ、少し様子は変だがねぇ。」
「マンボ姐さん?」
そう確かに変だった。
「はぁ、はぁ、おい、話を聞け!」
ウソンはヨンの剣を受け止めるのが精一杯で、話を切り出す余裕さえない。
少しでも油断すれば、鬼剣の餌食になってしまうだろう。
「話だと?!」
「だから聞け・・くっ!」
ウソンは後悔していた。
自分の苦しみを少しは味合わせたいと、出まかせを並べたが、ヨンの怒りは想像以上だった。
こいつは本気だ。
誤解を解かなければ殺される。
「ウンスは俺のものだ!お前などに渡さぬ!!」
「くそっ、何を今さら・・彼女を散々苦しめておいて・・」
「何!?」
そうだ、あいつは苦しんだ。
悲しい思いをして、辛い思いをして、散々苦しんで・・それでもこの男を選んだ。
「はあ、はあ、怒りたいのは俺の方だ!!お前なんかのどこがいい・・くそ!!」
「はぁ、はぁ、ふざけるな!彼女は絶対渡さない!!俺だけのものだ!!」
「馬鹿野郎!!なら手放すな!!死んでも離すな!!」
「黙れ!!黙れ――!!」
「おやおや、ただの喧嘩になっちまったよ。」
「姐さん、もういいでしょう?ねえ、早く止めて。」
マンボ姐さんは腕を組み優雅に男達の争いを見物している。
トクマンとテマンは欠伸を、呆れたハルは溜息を落としていた。
ひとりウンスだけはオロオロしている。
彼女には、どうしてここまで彼が怒るのか分からない。
「ウンス、おいつはウソンとあんたの仲を誤解しているようだ。」
「えっ?」
「原因はその子のようだね。」
マンボ姐さんの視線は、ウンスの腰にしがみ付く少女に向いている。
「まさか、ウソンさんと私が?」
「それ以外考えられないだろう?」
「うそ・・」
「まあ、間が悪いと言うか、間抜けと言おうか・・」
「やだ、どうしよう・・」
「まあ誤解なら、いつかは解けるが、問題は・・・」
ガシャ―――ン!!
「ヨン!?」
「さ、上護軍!?」
突然ヨンの手から鬼剣が滑り落ちる。
目の前に、呆然ち立ち尽くすヨンの広い背中が見えた。
彼が戦いの最中に剣を落とすなど考えられない。
明らかに様子がおかしい。
「だから言わんこっちゃない。」
ヨンの身体の異変を感じていたマンボ姐さんは眉をしかめる。
「ヨン!?」
慌てたウンスが駆け出そうとしたが、マンボ姐さんに止められた。
「危ないから、お止め!」
「でも、彼の様子が変だわ。」
「ああ、おそらく限界なんだろう、あいつは神じゃない、人間だよ、眠りもしない食べもしないじゃ、体が悲鳴を上げても仕方がない。」
「え、それって・・」
「そうだよウンス、お前を手放してから、あいつは死んでいた。生きること全てを放棄していたんだ、おそらく、あんたが戻らなければ十中八九死んでいただろう、まったく馬鹿な男だよ。」
「そんな・・」
信じられない・・
確かに苦しんでいるだろうと心配していた。
自分自身を責めているだろうと。
でも本当に死にたいと思っていたなんて・・・
彼の想いは私の想いより、はるかに深い。
人を愛する気持ちが、魂の全てを支配しているようだ。
こんなに深い想いがあったなんて・・・
「これがチェ・ヨン・・」
ウンスは信じられない思いでヨンを見つめた。
「ああ、これがチェ・ヨンだ。」
マンボ姐さんは静かに頷いた。
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