あの悪夢の夜は、いつの出来事だっただろう

いや昨日の出来事だったかもしれぬ。

言葉も交わせず、力の限り抱きしめることさえ出来なかった。

ただ意識のない彼女の顔を見つめ、そして・・

あなたの手を離した。

 

 

 

 

 

 

 

「だれ・・もう・・折角寝て・・えっ!?」

「危ない!」

「きゃあぁぁ!!」

とっさに身体が動いた。

縁側から転げ落ちた彼女の身体を寸でで抱き留める。

 

目の前で蝶の羽のように広がる赤い髪。

胸の中に感じるぬくもり。

 

「まさか・・」

 

周りの音を消し去るほど高鳴った鼓動。

もう何も聞こえない。

何も見えない。

目の前の彼女の姿以外は。

 

俺は身体の感覚がなくなるほど動揺していた。

 

「ヨンァ・・?」

 

俺の名を呼ぶ懐かしい声から、涙を浮かべ俺を見つめる大きな瞳から、瞬きする間も惜しいほど目が離せない。

そして気が狂うほど焦がれた彼女のぬくもり。

これほど残酷な幻があるだろうか。

目の前の姿が一瞬で消え去る幻ならば、俺はこの世の全てを呪うだろう。

彼女に出会ったことさえ後悔するかもしれない。

 

だが・・・

 

「ウンス・・」

 

 

二度と呼ぶことはないと思っていたあなたの名。

もう幻でも構わない。

一時でも、あなたに会えるなら、その後の苦しみは甘んじて受けよう。

あなたを抱きしめる事が出来るなら、俺は命を投げ出しても構わない。

 

「ヨン・・これは夢?」

「夢でも構わない・・」

「夢じゃ嫌よ!」

彼女の細い手が俺の頬を掴む。

 

「?!」

 

どういう事だ。

焦がれすぎて、俺は頭がおかしくなったか。

それとも哀れんだ天が、俺の五感を狂わせたか。

頬に触れる彼女の柔らかい手の感触。

記憶の中に染み付いたあなたの香り。

 

 

 

 

夏の季節。

戦の最中。

野に咲く花の中にあなたの香りを探し、幾度も足を止めた。

だが、どの花も俺の慰めにはならなかった。

せめて、あなたの好きな小菊の中に面影を重ねようと、花の咲く季節を待っていた。

 

 

「ヨン?」

 

彼女は起き上がることさえ出来ない俺の顔を見つめる。

瞳に浮かぶ大粒の涙。

その涙の雫が俺の頬に落ちた時、やっと強張った身体が解けた。

 

「ウンス・・本当にあなたか・・?」

 

手を伸ばし、あなたの腕を掴む。

そして俺の問いにゆっくり頷く彼女の頬に触れた。

涙で濡れた頬。

柔らかい肌の感触。

花びらの様に色付く唇。

 

夢じゃない。

目の前にいるのは、狂うほど焦がれた・・

 

 

 

 

俺の愛しい人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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