「如何いう事だ?!」
宣仁殿に緊張が走る。
多くの重臣達が集まり、王の前にもかかわらず興奮を露にしていた。
「は、はい,潜伏していた紅巾族が街の至る所で火を放っています!」
「何?!」
王の叫び声が響く。
「禁軍は何をしておる?!」
「禁軍だけでは、とても応戦できません!」
「では五軍を投じよ!」
開京に集結した軍は、街外れで戦の準備をしていた。
「そうだ、五軍に応戦させればよい!」
「それが・・」
額に汗を滲ませる将校。
「如何したのだ?」
王の問い掛けに、その男は俯いたまま答えた。
「敵の本隊が・・西京を陥落させ此方に向かっております。」
「何と・・?!」
「西京が堕ちた?!」
「信じられぬ。」
重臣達のどよめきが広間中に広がった。
「まさか西京が敵の手に堕ちるとは・・」
「李家は何をしておるのだ?!」
「イ・チャジュンは?!」
「上護軍もまだ戻らぬ、他の将校は?!」
どよめきが悲痛の叫びに変わる。

そんな騒ぎにも拘らず、王は瞼を閉じ考えを巡らせていた。
ウンスの言った事が一つ一つ現実になっていく。
彼女の言う事が本当ならば、やがてこの開京も敵の手に堕ちる。
それは高麗の敗北を意味した。
「まさか・・」
余計な考えを振り払うように、王は首を振る。
そして目の前でうな垂れている将校に向かって命令を下す。
「よいか、街の敵は禁軍に鎮圧を命ずる。都に向かってくる敵は五軍で迎え撃つ、民を安全な場所に避難させよ!チェ・ヨン上護軍が戻るまで、それぞれの役目をしかと果たせ!!」
「はっ!!」
兵は大きく頷くと、協議の間から駆け出して行った。
その姿を見送り、王は隣に控える内官に視線を送る。
「イ・ソンゲを此処へ。」
「はい。」
内官は足早に外へ向かう。
「そうだ、イ・ソンゲ殿がいる。」
「戦に巧みな若者だと聞く。」
「都の護りは彼に任せよう。」
重臣達はそれぞれ勝手な事を言い出していた。
この期に及んでも他力本願、自分達の身が守られればそれで良いのだ。
戦に巻き込まれる民の事など眼中に無い。

「上護軍、早く戻れ・・」
王は心の中で呟いた。
平常時なら感じない孤独、だが非常時になれば身に沁みて分かる重責。
国の大事を任せられる臣下は誰もいない。
唯一の友は彼方で戦っている。
彼は最悪の事態も考えた。
「坤成殿に参る。」
王は立ち上がり、重臣達を無視して広間を出ていった。







典医寺では、カン侍医とウンスの指示で戦への準備が始まっていた。
都が戦場になれば、多くの兵や民が傷付く。
王様や皆を安全な所に非難させたいが、兵達を見殺しにする訳にはいかない。
「薬剤、包帯、清潔な水、幾らあっても足りないわ。トギ、お願い。」
「おい。」
「なに?忙しいの後にして。」
「おい、話を聞け!」
ウソンはウンスの腕を掴んだ。
「いったい何の話?!」
「お前は逃げろ。」
「えっ?」
「ここが戦場になるのだろう?この国に関係のないお前が関わる必要はない。」
「何を言っているの、私は高麗の人間よ。」
「違う、お前は天人だ。」
「いいえ、私はあの人と結ばれて、この国の人間になったの。馬鹿な事を言わないで!」
ウンスは男の手を振り解いた。
そうよ、私はこの国の人間だわ。
愛してやまない高麗。
私はこの国で生涯を過ごすと決めた。
だから、この戦も他人事ではない。
あの人が護ろうとしている人達を私も護りたい。
「なら、あの男はどうする?」
「えっ?」
その時、典医寺の扉が開く。
そして濃紺の衣装を纏った男がウンスに近付いて来た。

「ヨン?」
「ウンス。」
「あ・・ウォン?」
もう錯覚どころではない。
同じ衣を身に着ければ、ヨンだと言っても誰も疑わないだろう。

「チェ・ヨン、あいつも安全な場所にいる事を望んでいるはずだ。なのに、お前は敵を迎え撃とうとしている、それも自分とそっくりな男を傍に置いて・・これを知ったら奴は如何思う?」」
「それは・・」
確かに南京に行けと言われた。
私が無事なら安心して戦えると。
それなのに私は・・
ウソンの言葉が彼女の胸に波紋を投じた。

「ウンス?」
「ウォン・・」
時を越えた彼も、私と同じ天界から来た人間になるのだろう。

天は彼の傍に私を、私の隣にウォンを・・・
縁が絡み合う。

これは、いったい何を意味するのだろうか。
                            







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