中部地方の家族の皆様、こんにちは。

中部地方最強の滝好き三人衆が一人、司法のS本です。

 

今回は…突然ですが、ここで問題です!

「宗教家が、異常な言動を示すようになっていた娘を連れてきた信者の求めに応じ、その娘の不調の原因を取り去る目的で、宗教上の行為として、同人の身体を手で押さえ付け、流れ落ちる滝の水を同人の顔面に打ち当てた結果、同人を窒息死させた場合、宗教活動の一環として行ったものであるから、正当な業務行為として違法性が阻却され、傷害致死罪は成立し得ない。」※平成30年の司法試験短答式試験で出題された5肢の内の一つ

○か×か。答えは×です。

 

この問題を選んだ理由は、以下の三点です。

➀ここ数か月、健脚を目指して山や道を歩いてきましたが、歩き過ぎで膝の古傷が痛み出してきたので、健脚ブログをお休みしたくなったから。

➁そこで、代替として、「司法」のS本らしく法律ブログを書きたくなったから。

➂せっかく書くなら、中部地方最強の「滝」好き三人衆の名前にも付いているように滝をテーマにしたものを書きたいから。

なので、今後は膝が痛み出したら定期的に別テーマでブログが更新されることになると思うので、ご了承ください。

 

以下では、前述の問題の答えがなぜ、×になるのかを解説したうえで、引用されている滝にまつわる判例の紹介をしていきます。

 

【×の理由】

この肢に限っては、法的知識がない方でも常識的に考えて正解を導き出せそうですが、それではこのブログを書く意味がなくなってしますので、解説していきます。

この肢を解くには、リーディングケースである最高裁昭和38年5月15日大法廷判決/玉蟲由樹「憲法判例百選Ⅰ[第7版]」86頁(有斐閣,2019)の判旨が頭に入っている必要があります。なので、以下に判旨を記載します。

「被告人Xの本件行為は、被害者Aの精神異常平癒を祈願するため、線香護摩による加持祈祷の行としてなされたものであるが、被告人Xの右加持祈祷行為の動機、手段、方法およびそれによって右被害者Aの生命を奪うに至った暴行の程度等は、医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは到底認め得ない……。しからば、被告人Xの本件行為は、所論のように一種の宗教行為としてなされたものであったとしても、……他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当るものであり、これにより被害者Aを死に致したものである以上、被告人Xの右行為が著しく反社会的なものであることは否定し得ないところであって、憲法20条1項の信教の自由の保障の限界を逸脱したものというほかはなく、これを刑法205条に該当するものとして処罰したことは、何ら憲法の右条項に反するものではない。」

この判例の立場にしたがって比較検討すると、本肢の行為は、医療上一般に承認された精神異常者に対する治療行為とは認められないですし、他人の生命、身体等に危害を及ぼす違法な有形力の行使に当たるものとはいえません。そして、これにより被害者を死に至らせている以上、正当な業務行為にも当たりません。よって、「正当な業務行為として違法性が阻却され、傷害致死罪は成立し得ない」とする点で、本肢は誤っているので、答えは×になります。

 

【参照条文】

憲法「第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」

刑法「第二百五条 身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、三年以上の有期懲役に処する。」

刑法「第三十五条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。」

 

【判例紹介】

以下では、判例を紹介していきます。なお、判例紹介は長々と書いても読むのが大変でしょうから、内容を一部割愛し、文量を最小限に抑えました。

 

〈事案の概要〉

B教会の僧侶である被告人Xは、被害者Aの父であるCから平成21年夏頃に統合失調症を罹患して、異常な言動を示すようになっていた父Cの次女である被害者Aの中にある不調の原因を取り去って、元の状態に戻して欲しい旨の依頼を受けた。そこで、被告人Xは、被害者Aに水を浴びさせる滝行等を行ってきたものであるが、同様の目的で、父Cと共謀の上,平成23年8月27日午後9時10分頃、K県内の被告人X方敷地内に設置されたB教会の「滝場」と称する小屋内において、被害者A(当時13歳、身長161cm)を木製土台付きのプラスチック製椅子に座らせ、その両太ももをそれぞれ安全ベルトで椅子の座面に縛り付けて固定し、その両腕をタオルで巻いた上で、それぞれ粘着ビニールテープで椅子の肘掛け部分に縛り付けて固定し、その両足のふくらはぎ部分をそれぞれ着衣の上から粘着ビニールテープで椅子の各前脚部に縛り付けて固定した。すると、Cが、木製土台上にあがって、被害者Aの背後からその頭部を両手で挟み込むなどして固定し、約5分間にわたり、被害者Aの上部前方から流れ落ちる水をその顔面等に打ち当てて、被害者Aに窒息状態、急性心疾患又は窒息状態及び急性心疾患を生じさせた。よって、8月28日午前3時43分頃、K県内のD病院において、被害者Aを窒息死又は心臓性突然死させた。

 

〈熊本地裁平成25年3月22日判決〉

そこで、起訴された被告人Xには、第一審で懲役3年6月に処する判決が下された。これに対して、被告人Xは事実誤認を理由に控訴した。

 

〈福岡高裁平成25年10月2日判決〉

控訴棄却。

「1原判決の概要

原判決は、本件滝行が不法な有形力の行使に当たることを当然の前提とした上、大略、次のように説示し、被告人Xの行為が正当業務行為に当たらず、本件滝行を行うことについて被害者の承諾がなく、被告人Xには違法性の意識の可能性があったと判断している。すなわち、

(1)正当業務行為の成否

被告人Xの行為が正当業務行為に該当するというためには、行為の目的が正当であり、かつ、その手段が目的を達するためのものとして相当であると認められることが必要であるところ、本件では、その手段である被害者Aの身体を椅子に拘束して顔面に滝の水を浴びせるという行為が、被告人Xの所属する宗教団体でも認められていない方法である上、人を死亡させる可能性がある危険性の非常に高い行為であるので、目的を達するために相当な行為であるという余地はなく、宗教行為であることを理由に正当化されない。被告人Xは、B教会の基本的な教えには反しているが、被告人Xが「おじひ」と述べる仏の指示によるものである場合には、例外的に許容されるとも述べる。しかし、本件において、被告人Xが「おじひ」を受けたとするのは、滝行を行うことについてだけであり、本件行為は、被告人Xの述べる例外的な場合にすら当たらない。

(2)被害者及びその両親の承諾

被害者Aは、統合失調症に罹患していたとはいえ、当時既に13歳であって、生命身体の危険を判断する能力を有していた。本件滝行は、人の生命を奪う可能性のある危険性の非常に高いものであり、被害者は、必死に体を動かすなどして、強く抵抗していたのであるから、被害者Aが本件滝行について承諾していなかったことは明らかであり、両親の同意をもって、被害者の同意と同視する余地もない。

(3)違法性の意識の可能性

被告人Xらによる行為は、滝の水を打ち当てられた人を窒息状態や急性心疾患に陥らせ、その生命を奪う可能性がある危険性の非常に高い行為であって、被告人Xにこの行為の危険性を誤認されるような事情は全くない。被告人Xは、被害者Aの必死の抵抗を目の当たりにしていたのであり、被害者Aの意思に反して本件行為に及んでいることを認識していたと認められる上、被告人Xが本件以前に被害者Aを拘束して水を当てることについて、B教会内部の者からも、犯罪じゃないのかなどという批判を受けていた事情もあるのであるから、被告人Xは、本件滝行が違法であることを認識する可能性があったと認められる。原審弁護人は、被告人Xが、被害者を元の状態に戻すにはこの方法しかないと考え、追い詰められた状況にあったことや、同様の症状を持つ人を済度によって治した経験があったことから、本件滝行の違法性を認識する可能性がなかったなどと主張する。しかし、これほど危険性の高い方法を選択せざるを得ないほどに追い詰められた状況にあったとは認められず、被告人Xが治したと主張する者が、被害者Xと同様の症状であったとは認められないので、原審弁護人の主張は、採用できない。

2当裁判所の判断

(1)本件滝行が、人の生命を奪う可能性のある危険性の非常に高い行為であり、不法な有形力の行使に当たることを前提とした上、被告人Xの行為が正当業務行為に該当せず、本件滝行を行う被告人Xには違法性の意識の可能性があったと認定した原判決の前記判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、法的な評価も相当であり、当裁判所も正当なものとして是認することができる。

(2)これに対し、弁護人は、〔1〕被告人Xが、治療効果の期待できない重い精神障害の被害者を救済する目的で、本件滝行により除霊をしたものであること、〔2〕その手段方法が、滝場の水を頭に当てて顔面に流すという平穏なものであって、本来的に人の死の結果を生ずる危険性のある行為ではなく、被害者に陳旧性の甲状軟骨の骨折という誰も予期していなかった既往症状が、そこに父Cが意図せずして被害者の喉頭部を圧迫するという予想外の行為に出たために、被害者Aが喉頭麻痺及び気道閉塞を起こすなどして死亡するという結果が生じたに過ぎないこと、〔3〕被害者Aには多重人格があり、本件滝行を受けることを嫌がったのは、被害者の体内に潜んでいた霊(別人格)であり、本来の自我の被害者Aは、本件滝行を受けることを承諾しており、両親も承諾していたことなどを理由に、被告人Xの行為が正当業務行為に当たる旨生張する。しかし、〔1〕については、被告人Xに被害者Aを救済する目的があり、宗教的行為としてなされたものであったとしても、本件滝行により被害者の精神障害が良くなることは科学的な根拠がなく、生命や身体の危険性も高いものであるので、本件滝行を行うことが手段や方法の相当性を欠くことは明らかである。〔2〕については、被害者の死因は、前記第1で説示したように、溺水による窒息死又は本件滝行によるストレスから発症した急性心疾患による心臓性突然死であり、父Cが被害者Aの喉頭部を圧迫したことによって生じた窒息死ではないのであるから、弁護人の主張は、その前提において失当である。そして、父Cの証言によって認められる態様の本件滝行が、本来的に人の死の結果を生ずる危険性のない行為であるなどといえないことも明らかである。〔3〕については、被害者に多重人格があったとの専門家による診断はない上、本件滝行を行うことについて、本来の自我の被害者が承諾していたなどということはできず、両親の承諾をもって被害者の承諾と見ることができないことも、原判決が説示するとおりである。したがって、弁護人の主張は、採用することができない。

(3)以上検討したように、被告人Xの行為が正当業務行為に当たらないことなどを判断した上、被告人Xに傷害致死罪の成立を認めた原判決は、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、正当というべきであり、事実誤認をいう論旨は、理由がない。

第3 その他の主張

なお。弁護人は、控訴趣意書差出期間の経過後に提出した控訴趣意補充書において、仮に、被告人Xが有罪であったとしても、被告人Xには刑の執行猶予が相当であるという控訴趣意書に包含されない主張を新たに行っている。

しかし、弁護人の主張は、本来、職権調査の必要性も存しないものである上、犯行態様の危険結果の重大性、犯行における被告人の立場や役割等に鑑みると、被告人Xのために酌むべき事情を十分に考慮し、共犯者である父Cとの刑の均衡を併せ考えても、本件は刑の執行を猶予すベき事案ということはできず、原判決の量刑は、刑期の点を含め、相当である。

よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。」

 

〈最高裁平成26年2月25日第一小法廷決定〉

これに対して、被告人Xは事実誤認、法令違反、量刑不当を理由に上告した。しかし、最高裁はいずれも刑訴法405条の上告理由に当たらないことを理由に上告を棄却した。

 

〈S本コメント〉

傷害致死罪の成立を肯定した本判決は、前述したリーディングケース同様の結論となっているので、支持できる。

数年前の厄年の時に、S本もA県内の某宗教施設で滝行を行ったが、本件滝行のように手足を椅子に固定するために縛り付けられることはなかった。しかし、椅子に縛られ固定されなくとも、毎秒何十リットルもの冷たい地下水が身体に叩きつけられる感覚は今でもはっきりと覚えており、もう少しで気絶する寸前のところであったと記憶しています。なので、滝行をする際には細心の注意を払って、信頼できる施設で信頼できる指導者の下で行いましょう。

 

おしまい。

【前回の投稿】