城山ダムによってできた津久井湖。

若い頃、その奥の右岸の、丁度、沼本ダムのすぐ近くに、2年ほど住んでいました。当時は、神奈川県 津久井郡 相模湖町 寸沢嵐 だったかな。

部屋の窓を開けると、対岸の山の斜面を真横に延びる道が見えていました。何人かに尋ねましたが、その道を知る人はおらず、いつしか自分の記憶から消えていきました。

そして………

ん十年後の現在、その消えた記憶の景色のなかに滝の存在を知り、会いたい気持ちが膨らんで、訪瀑を決意しました。

おそらくその滝は、滝好きさんにとって、とるに足らない滝ですが、自分にとっては時を越えて会うべき滝のように感じていました。

滝への道は、県道515号三井相模湖線。津久井湖左岸の三井(みい)と千木良(ちぎら)を結ぶ県道です。三井から途中の名手(なで)までは車幅制限:1.7m の離合不可能な細い道、でも現役の生活道路として機能しています。

今回はその西側、窓から見ていた、名手から赤馬(あこうま)までの廃道となった不通区間に、MIMIZUさんと名手側から滝を目指します。

国道413号線から名手方面に、名手橋を渡ると山の緩斜面の住宅街に。
地元の方々のご迷惑にならないように、県道入り口のだいぶ手前の路肩に停めて坂道を歩きます。

ココから………県道515号線。ごく普通の街中の路地ですが、廃道マニアさんには魅惑の道路です。

滝は名手側から1.2km、赤馬から0.9kmの地点にありますが、道路状況と駐車場所で自分達は名手側から徒歩で目指すことにしました。

歩き始めると直ぐに、頑健なゲート。よく見かけ倒しで簡単に開くゲートもありますが、これはびくともしませんでした。

もっとも、この先は車輪の乗り物は物理的に走れませんし、人間が通過できればそれでOK。

うほっ!廃道屋さんでなくても、ワクワクしてしまう格子バリケード。

BIOHAZARD名物の格子レーザーに1票!

時々見かけるイノシシのワナ。本当に機能するのか、入って試したくなったりしませんか?

津久井湖左岸の斜面に沿って、道は概ねこんな感じ。

最低限のメンテナンス、おそらく歩いているのは、東京電力の職員さん、バリルートを楽しむ人、廃道を楽しむ人………。

所々、斜面が崩れて、貧弱なガードレールが辛うじて塞き止めています。

そろそろ限界、もう力尽きそうです………
そんなガードレールの嘆きが聞こえそう。

5月としては記録的猛暑のこの日、木陰歩きは爽やかで有り難かった。

ぎゃぁ!

時に、ずん胴履いて、ヘッドランプ着けて廃坑に突入するMIMIZUさん。ぶら下がっている可愛いイモムシに驚く、そのギャップが僕にはどうも理解できません (笑)。

これはもはや車が往来する道に復旧するのは、不可能ではないかと。匙を投げるの、わかります。

何ヵ所かの崩壊、何ヵ所かのヤブコギを経て、いよいよ目的とする滝が見えてきました。

ここまで無かった、沢の流れ、滝の音。

県立陣馬山相模湖自然公園。何十年も前から、孤独に耐えて、標識は良く頑張った。

見えている滝は、合わせて三段の滝の中段に当たります。

滝前の道は、沢からの石で埋め尽くされて、覗き込んでも下段は良く見えません。ただ、微かに滝の音は下の方からも聞こえてきます。

せんてんすくらぶ.net さんから画像をお借りしました。

ネットにあったナナフシのようにひしゃげた階段は、架け替えられていました。

階段を登って、沢を進んで上段の滝に。

大洞の滝
荒れた沢の奥、木漏れ日の中に、ひっそりと滝が。天気が良かったので、上手に写真が撮れる条件ではありませんでした。

強い光を浴びて、輝く滝。

上の方も、下の方も。

MIMIZUさんは防虫パーカーを纏っていましたが、花嫁さんのベールのようでもあり、嵐のツアー衣装のようでもあり………肝心な効果はどうだったんだろうか。

集水域は狭いはずなのに、元気な水。

眩いくらいの輝きも、そのまんま撮れるカメラが欲しいです。

それにしても………昔見ていたあの景色の、廃道に滝があったなんて。そして、ちゃんと名前を今に残して下さった方に、感謝しかありません。

嫌われものは、完全変態してこんなに可憐になるのです。

取水口の痕跡、沢の水はダム湖に沈んだ村まで引かれていたのか?

健脚のMIMIZUさんは足取りも軽やかです。

ここまで来たら、カンヌキしましょう。赤馬のゲートを目指します。

あらら?ココは谷に体を投げ出すか、上を乗り越えるか………どうやってクリアしようか期待していたのに、イメージが崩壊した。

良いような、良くないような。

しばらく進むと、突然、視界が開けて津久井湖がクリアに見えます。

沼本ダム
そう、城山ダムによる津久井湖に沈むダム。沈むと言っても最大、どこまで沈むのか見てみたいです。

赤馬側にはもう一つ、格子バリケード。

バリケードを越えると、道路は普通の舗装道路に。植生も変わります。

そして………
赤馬側のゲートは開いていました。ただ、"全面通行止め"の三重奏が、行政の姿勢を如実に表していました。

これで、県道515号線の不通区間、カンヌキ完了となるわけですが………相棒は名手側なので、同じ道をピストンします。

クリスマスのオーナメントのようで、目を奪われました。

ものものしい、格子バリケードに逆戻り。自分達に向かって迫ってきたりして………。

途中、往路で寄らなかった、三井用水取入口跡に寄っていきます。

沼本ダムの高さまで、鉄の通路をガンガン下っていきます。

何故、「市濱横」かと言うと………

明治20年、道志川と相模川が合わさるこの地に取水口をつくり、ポンプで汲み上げた水を44km 離れた横浜市野毛山の浄水場に送水していたから。[参考: 神奈川水めぐり

三井用水取入口跡
この遺構は、送水路なのか沈澱池なのか、自分には判りかねます。

44kmの送水と簡単に書きましたが、明治の頃の事業、技術として、どうだったんだろうか。

令和、平成、昭和、大正………その前の話。

津久井湖畔
そして現代においても、相模川水系の宮ヶ瀬ダム、城山ダム、相模ダム、それと酒匂川水系の三保ダムは神奈川県の皆さんの生活を担う、大切な水を安定供給しています。

湖畔には上流の市街地からの廃棄物が散らばっています。ともすれば、敬遠しがちなのですが、その中に「遺」なモノ、「廃」なモノを見いだすMIMIZUさんの眼力は、流石だと思いました。

沼本ダム
貯水率が55%位になって水位があと10mほど下がると、足元に水没している取水施設の遺構が現れるようです………残念。

湖面を滑るように吹いてくる爽やかな風に、ひととき休んで515に戻りました。

往路で歩いているので、2kmの帰路はあっという間。県道515不通区間のカンヌキ×2、完結となりました。

相棒に戻り、ちょっと寄り道して、対岸の寸沢嵐から沼本ダムを眺めに。
なるほど、さっきはあの辺りを歩いたのですね。

沼本ダムの入り口は封鎖されています。

せっかくなので、千木良の現役県道515から、国道20号線の大垂水峠を越えて、MIMIZUさんを駅まで送って帰宅しました。




………


………ガサゴソ


………屋根裏部屋でゴソゴソ


………あっ!  あった!


ん十年前、確か引っ越しの日に、記念に撮ったんだ。

時々、忍び込んで遊んでいた、沼本ダムの入り口。白いガードレールが県道515号線、ちょうど頭の後ろが大洞沢あたり。

将来の自分が滝に興味を持ち、ん十年後に対岸のあの道を歩いて、隠れている大洞の滝に会いに行くなんて………

時の流れの不思議な連鎖。

そんな滝旅にご一緒いただいたMIMIZUさん、どうもありがとうございました。


結局あの道、人が通るのを一度も見たことありませんでした。

ただ、夜は二度ほど、光が漂っているのを確かに見ています。

おそらく、懐中電灯?  二輪のライト?

それとも………

【まとめ】
◯2019.5.26 MIMIZUさんと。
◯天気は晴れ、5月としては記録的猛暑日。
◯大洞の滝に会う。
◯県道515号線不通区間のカンヌキ。
◯三井用水取入口跡と津久井湖畔。

◯訪れた滝
○大洞の滝:神奈川県 相模原市