月宮殿の白衣の袂 | 瀧光の絵画世界

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水墨画、日本画、洋画など幅広い絵画制作活動をしています。
これまでの人生経験や美大大学院で学んだことをベースに、ブログを書いています。

 ブログ記事「すり足会」において紹介したが、去る3月16日に第25回「さがみはら能」が開催され、初めて「すり足会」として能舞台に上がり、仕舞「鶴亀」を演じさせていただいた。


 能「鶴亀」は、現行曲中 本文がもっとも短いとされるが、その内容は壮大である。

 中国 唐の時代において、玄宗皇帝の宮殿が舞台となり、年のはじめの儀式が行われる。そこでは、多くの官人の前に、大臣を引き連れて玄宗皇帝が現れて、慣例に従い、「鶴」と「亀」が皇帝の長寿を讃えて舞うのであり、そこから「鶴亀」という名前がある。
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 そして、最後には、興に乗った皇帝自ら舞を舞うのだが、その様子が次のように謡われる。これが仕舞「鶴亀」の内容となっている。


 月宮殿の 白衣の袂
 月宮殿の 白衣の袂の色々妙なる 花の袖
 秋は時雨の紅葉の葉袖
 冬は冴え行く 雪の袂を
 翻す衣も薄紫の 雲の上人の舞樂の聲々に
 霓裳羽衣の曲をなせば
 山河草木國土豐かに千代萬代と 舞ひ給へば
 官人駕輿丁御輿を早め
 君の齢も長生殿に
 君の齢も長生殿に
 還御なるこそ めでたけれ



 冒頭現れる「月宮殿の白衣の袂」とは、月世界の宮殿には白衣の天人が15人、黒衣の天人が15人居て、毎日15人で、日毎に一人ずつ交替して舞を舞う。その白衣の天人ばかりとなった時が満月であるという。その天人の白衣を指している。


 その気宇壮大な景色に感銘を受けて、わたしは、次のような絵を描いた。

 「白衣の袂」の天人を満月の中に描いて、
 金の砂子を使って、変化無限の衣や袂や袖を現した。
 はるか眼下の「月宮殿」は、千駄ヶ谷にある「国立能楽堂」を模している。

 

 

 


 われわれ「すり足会」は、能楽師松山隆雄先生と共に、総勢5名になるのだが、自ら「月宮殿の白衣の袂」を謡って、舞を舞わせていただいた。

 何も存在させない3間(約10m)四方の能舞台において、僅か3分程度の時間であるが、拙いながらも、玄宗皇帝として、壮大な宮殿の前で、中国の広大な山河や草木を想い、宇宙まで広がる美の世界を演じることができた。

 若い人達が普通に楽しんでいる 歌い 踊る 全身で表現する 舞踊の世界の悦びを能の世界により教えていただいたものである。

 グリーンホール大ホール 「さがみはら能」において 松山先生をはじめとする関係者の方々や多くの観客の皆様に感謝申し上げる次第である。