僕の芸能活動の原点は、テニミュと言っても過言ではありません。

テニスの王子様という作品ももちろん、ミュージカル『テニスの王子様』(通称テニミュ)。

そこで出会ったキャスト、スタッフ、ファンの皆様に人生においての士気を高められました。

僕は、テニミュを始めた頃は二十歳そこらで、今思えば少しイキっていた気がします。

若くして仕事や経済的にも、ある程度恵まれていたからかもしれないけど、芸能界はみんなライバル、仲良しこよしで作品創りなんてできるかよって思っていました。最初の頃は、超クールであまりキャストのみんなとも多く深くを語らず、自分のことは自分で抱え込み周りとも少し距離がありました。僕にとっては初舞台、ミュージカルというもの自体もほぼ僕の教科書にはなく、「俳優が歌って踊るの?」という気持ちでしたし、さらにアニメ原作の舞台、いわゆる2.5次元というモノ創り自体も「???」でした。日々の稽古の中で、僕はいくら一人で考えても「???」は「???」のまま残り、悩み迷ったまま芝居をしてももちろんいい答えなんてでない。そんなある日、越前リョーマ役の柳浩太郎が、「部長はこれから部長ね!」って、僕の呼び名をつけてくれました。(それから20年間今も部長です。酔うと、ぶっちょ。)何かある度に、「部長!ダンスの振りが違うよ!部長1テンポ遅いよ!」「部長!部長!!」。自然とキャスト全員、さらにスタッフさん、そしてファンの方々からも部長と呼ばれるようになりました。芝居に歌にダンス、皆が僕に突っ込むようになって、僕の中の「???」が一つ二つと消えていったんです。そしていつの日か、僕の中で周りの期待に応え、背負わなければならないという使命感が芽生え始めました。今思うと、柳が部長と呼び始めたのは、僕に「手塚国光たるもの部長らしく引っ張ってくれ」というメッセージだったのかなと思っています。そして、僕はテニミュを通して、遅ればせながら作品を創っていく上で一番大切なモノを教わりました。スタッフ、キャスト全員が一つのチーム。共に支え合い、共に補い合い、共に成長していく絶対的なチームなんだと。それが最高の化学反応を引き出すんだと。

そしてテニミュは、2003年にスタッフ、キャスト共に試行錯誤しながらの、ある意味実験的に産声をあげました。テニスの王子様のアニメ原作を愛するお客様の中にも賛否両論もあったことと思います。

前途多難の中、それでも走り始めた「テニミュ」は、照明や音響を駆使したテニスの表現、ラケットを使ってのダンスや歌など、リアルな汗や涙や乾汁そして、スピード感のあるラリーの応酬にリアルにテニスボールが見えてきたことにも、ステージでこういう魅せ方ができるんだと感動したことを覚えています。

ただそれでも、2003430日テニミュ初日一発目のお客様の入りは5割超え程度でした。今のテニミュじゃ考えられないと思います。

今みたいにSNSもほとんど無かった時代だったけれど、それが口コミで広がったのか、千秋楽にもなると立ち見が出る程の超満員になったのです。幕が開いた時のあのお客様の熱量と地鳴りのようなどよめきは今でも心に残っています。

その後、追加公演も成功し、テニミュが少しずつ波に乗ってき出した頃の、柳浩太郎の事故。。。

一同は呆然となり、事を理解するのに時間がかかりました。彼とは楽屋も隣りだったし、コミュニケーションはとれていた仲で、彼は家に泊まりに来ては、散らかして去っていく。プライベートでも芝居でも互いに主張ができた先輩後輩の垣根を越えた関係でした。そんな柳の突然のアクシデントは本番の直前の事でした。柳の意識がまだ戻らない中、公演の中止が濃厚視されました。そんな中、皆にある言葉が伝えられました。それは柳のお母様の言葉でした。「できることなら公演を続けて頂きたい。それを彼自身も望んでいるはずです。彼はテニミュを誰よりも楽しみにしていた。彼が目覚めた時に彼のせいで公演中止になったと知ったら彼は一生涯悔いるだろう。」と。その言葉を聞いた僕たちは、折れかけた心に今一度猛火を灯し、本番までの一週間足らずの時で、皮肉なことにステージのクオリティ、さらにはスタッフ、キャストの絆をより強固なものにしていきました。急遽メンバー内でキャストを変更し、皆でカバーし合いながら乗り越えました。

「柳の為に」、「柳は必ず戻ってくる」、「柳が戻ってくるまでテニミュ熱を冷まさないように」とキャスト、スタッフが一丸となりました。僕達の力で柳にエールを送りたかった。柳自身も頑張っている力で僕達に力をくれました。

全員が一致団結をし、一公演一公演を大事に大事に、想いが届くように演じました。

そして…僕はその公演を最後にテニミュを静かに降板させて頂きました。

その後、柳は不屈の魂で目覚めた後、リハビリに専念しテニミュにカムバックしてきました。僕の中でずっと引っかかっていた手塚国光(部長)としての、柳浩太郎が演じる越前リョーマとの試合。「叶わなかったこの試合をどうしてもやりたい。彼やお客様にも伝えたい思いがある。」と、柳の復帰公演への出演を懇願させて頂きました。

彼は稽古中から、思うように動かない体の中、弱音も一切吐かずに、誰よりも遅くまで居残り練習をしていました。死にものぐるいで周りについてきていた印象。それをkimeruや森山さん初め、周りの仲間たちが必死に支えていました。相変わらずの生意気でクソガキな彼は、元々ストイックでしたが、スーパーストイックになって帰ってきました。そんな彼の執念と信念は、確実に自然と周りを導いていました。彼との試合でのラリーは、一球一球に思いを込め打ちました。

何度倒れても這い上がり、敵に立ち向かってくる越前リョーマの姿勢が、柳浩太郎の生き様と重なって見えました。



負け知らずのお前 この挫折を乗り越えろ

強くなるのだ お前には明日がある

上には上がいる 世界の頂点を知れ

目指せナンバーワン お前には未来がある


敗北バネにして 伸び上がれジャンプアップ

強くなるのだ お前には敵がいる

努力を怠るな 汗と涙にまみれて

目指せナンバーワン お前には仲間がいる


どこまでも行ける果てしない

今はただのスタートライン


走れ 跳べ 打ち込め

青学を勝利に導け

お前は青学の柱になれる男

(歌詞引用)



僕自身は個人的にテニミュでもうやり残したことはないかなと、ケジメをつけ、初代メンバーと一緒に卒業することができました。

卒業公演のゲネプロ(本番前に関係者のみの本番さながらの実演)で凄い印象に残っていることがありまして、本編のラストに演出の上島雪夫さんから一人一人名前を呼ばれ、卒業の挨拶をお客様に向けてアドリブで語る場面がありました。ゲネプロではお客様も入っていなかったので、語った体でスルーしようと思いましたが、客席で観劇していた青学二代目達が目に飛び込んできました。思わず、僕は「城田!あとは頼んだぞ!!」って叫んでいました。すると、彼は客席で一人立ち上がり、「有り難うございます!頑張ります!」って大声で応えてくれたんです。その時の彼の立ち振る舞いを見て、「彼なら大丈夫だ!これからのテニミュも大丈夫だ」と確信しました。僕たちの思いを二代目が繋いでくれて、さらにクオリティーも上げてくれて、その思いが20年も続いていることが奇跡で本当に嬉しく思います。


僕自身は、正直最後の最後まで『ミュージカル』というものに苦戦しました。歌やダンスに感情をのせる難しさ。「愛してる」の一言を非日常的に歌で伝えることの難しさに最後まで答えを出せなかった気がします。ただ、僕の価値観を変えてくれたテニミュ、そしてテニミュでもがき苦しめた経験や仲間達と共に上を目指したチャレンジ精神は財産となり、後の芸能人生の糧となり、目の色を変えてお芝居と人に対して向き合っていくことができました。

卒業公演終演後に初代メンバーとは、「空席が目立っていたあの頃、チラシを街頭で配ったり、友人知人にも片っ端から声をかけていたあの頃の、初心だけは忘れないようにしよう。そしてこれからは、良きライバル、戦友として各々のステージで闘っていくことになると思うけど、みんな負けるなよ!本当に苦楽を共にした最高のチームでした。」と伝えたことを覚えています。


テニミュは20年の歴史があります。

たくさんの各々の想いや汗や涙があります。

ずっとお客様に支えられてきました。


20年経った今、僕は事故により障害を抱えて車いす生活となりました。

僕が怪我をしてからというもの柳浩太郎はちょこちょこ「何してる?元気??」「いつ家に行っていい?」と連絡をくれます。

同じ傷みや悔しさを味わった彼だからこそ、人に対しての感謝の思いが強い彼だからこそなんだろうと感じます。

僕は心一つに共に戦えた仲間がいたから今があります。

その今、僕は一度諦めかけた夢に挑戦中です。僕の長い人生において、ある意味のリスタートライン。

どうなっていくのか今後の事はわかりませんが、テニミュで鍛え込まれたサムライスピリッツで、

どんなに未来がいばらの道の彼方でも地を這ってでも前に進んでいきます。



今 手の届く 幸せじゃなく

今 耐えることで 見えてくる明日

今 酔いしれる 栄光じゃなく

今 歯を食いしばり 手に入れる未来

今 今をつなげて永遠にしよう

NOW & FOREVER

(歌詞引用)



改めて、『テニミュ』20周年、おめでとう。


これから先も、

才能溢れる若い方々にとっての『夢の扉への第一歩』として成長を続けてほしい。




テニミュ初代

越前リョーマ役 柳浩太郎

大石秀一郎役 土屋裕一

不二周助役  Kimeru

菊丸英二役 一太郎、永山たかし

乾貞治役 青山草太

河村隆役 阿部よしつぐ、森本亮治

桃城武役 森山栄治

海堂薫役 郷本直也


心から、ありがとう。










初代

手塚国光(部長)役

滝川英治


油断せずに生きよう…