第1回(第30回①と同趣旨の回答)
①原価計算制度として実施される工事原価計算の目的について
原価計算制度として実施される工事原価計算の目的としては、
建設業における原価計算の目的には、適正な工事価額の算定という対外的な目的
と、経営能率の増進という対内的な目的がある。
対外的な目的には、適正な原価を集計し財務諸表を作成する目的、工事ごとの採
算性を見極め見積書等の受注関係書類を作成する目的、官公庁への提出書類を作
成する目的がある。
また、対内的な目的は、工事別の実行予算を作成し、原価差異の分析等を行うこ
とで、無駄をなくし、個別工事の適正な管理と能率増進につなげることである。
さらに、これらに関する情報を経営管理者に報告し、全社的な利益管理を図る目
的も含まれている。
②工事間接費(現場共通費)が発生する場合、これをどのように個別の工事原価
に賦課すべきか
工事原価計算においては、工事間接費は、価額や時間等適切な配賦基準を選択し、
個別の工事原価に配賦する。配賦の適格性を図るためには、工事間接費をできる
限りその発生と関係の深い活動に結び付けて、製品やサービスに配賦することが
望ましい。
また、工事間接費の実施発生額を把握してから配賦する実際配賦法では、計算の
迅速性や正常性の両面で不備があるため、個別の工事原価への配賦においては予
定配賦法や正常配賦法を採用することが望ましい。

第2回
①建設業において予算を設定することの意義について
建設業は、受注1件当たりの契約金額が大きく、工期も長いため、採算がとれる
工事であるかどうかの判断が非常に重要である。そのため、建設業では、会計期
間内のすべてを包括した大綱的な予算である基本予算と基本予算を細分化した実
行予算を策定することが通常である。実行予算は、月次別、四半期別、工事別、
プロジェクト別など、受注した工事を確実に採算化するために、日常的なコント
ロールを強化する目的で編成されるものである。
②積算上の直接工事経費と完成工事原価報告書上の経費の相違点について
積算上の直接工事経費と完成工事原価報告書上の経費の相違点の1つ目は、原価
計算をする時期である。すなわち、積算上の直接工事経費は、事前原価計算であ
り、完成工事原価報告書上の経費は、事後原価計算である。相違点の2つ目は、
対象範囲の違いである。すなわち、積算上の直接工事経費は、直接工事費の中に
含まれる経費に限定されるのに対し、完成工事原価報告書上の経費は、共通仮設
費と現場管理費に計上されるものも含まれる。

第3回
①生産活動を中心とする企業に適用される個別原価計算と総合原価計算の相違点
について、建設業との関係にも触れながら説明
個別原価計算は、受注品の少量生産等に適した原価計算であり、製品ごとに作成
した生産指図書に原価を集計し、原価管理を行うものである。一方、総合原価計
算は、見込み大量生産を行う場合に適した原価計算であり、製造原価を生産量で
除して、製品当たりの単位原価を計算するものである。建設業の場合は、請負に
よる受注生産を行っているため、原則として、個別原価計算が採用される。
②受注した工事における労務作業(外注を含む)の原価計算処理について
建設業では、生産に従事する労務者に対して支払われる賃金は労務費に、現場管
理者等に支払われる給料・手当等は人件費として経費に算入される。なお、実質
的に工事現場での労務作業と同等の内容である外注費(労務外注費)については、
外注費ではなく労務費に含めることができる。

第4回
①(第33回②、第17回②と同趣旨の回答)工事に共通する費用が常時発生する場合、
これについて予定率を使用して配賦することの意義
工事間接費の配賦に予定配賦法を用いる意義として、計算の迅速化と配賦の正常
性の二つがある。工事間接費の実際発生額を配賦する実際配賦法を採用すると、
工期の終了により工事間接費の金額が確定しなければ、配賦作業を実施できず、
配賦計算が遅延することになる。また、工事間接費には固定費が多く含まれてい
ることから、実際配賦法によると工事間接費の配賦について、操業度の影響を受
けてしまうことになる。予定配賦法を用いることで、これら実際配賦法の欠点を
克服できる。
②(9②、17①と同趣旨)建設資材のうち仮設材料の損耗額を工事に配賦する意
義と手法について
仮設材料は、複数の工事に使用可能であるため共通費として把握し、適切な配賦
方法により各工事に配賦することが適切である。なお、配賦方法には、社内損料
方式とすくい出し方式がある。社内損料方式とは、あらかじめ当該材料等の使用
による損耗分等の各工事負担分を使用日数あたりについて予定し、後日、差異の
調整をする方法である。
すくい出し方式とは材料等を工事の用に供した時点において、その取得価額の全
額を原価処理し、仮に、工事完了時において何らかの資産価値を有する場合に、
その評価額を当該工事原価から控除する方法である。

第5回(第33回②と同趣旨の回答)
①建設業において事前に原価を計算する意義について
建設業で用いられる事前原価には、A:見積原価、B:予算原価、C:標準原価
の3つが挙げられる。Aは指名獲得あるいは受注活動のような対外的資料作成の
ための原価であり、財務会計上の数値をそのまま持ってくるものではなく、いわ
ば試算としての原価である。Bは受注工事を確実に採算化するための内部的な原
価であり、Cは個々の工事を日常的に管理するための能率水準としての原価であ
る。なお、BとCについては、原価計算制度における原価であるが、Aについて
は、一種の原価調査であり、原価計算制度における原価には含まれない。
②複数の車両によって工事用資材を運搬している場合、この費用をどのように個
別の工事原価に算入すべきか、その手法について説明
複数の車両によって工事用資材の運搬をしている場合の費用を個別の工事原価に
算入する手法としては、社内センター制度と社内損料制度がある。前者は、車両
の調達・整備・管理を行い施工部門に対し補助的なサービスを提供する車両部門
を組織管理的な意味で独立させ、各車両の使用率を設定して一括管理する制度で
ある。後者は、車両の時間当たり又は日数当たりの使用料を事前に設定しておく
方式である。

第6回(第21回①、第33回②と同趣旨の回答)
①特殊原価調査を定義し、建設業原価計算においてこれをどのように活用すべき
かについて
特殊原価調査とは、将来の経営上の選択(経営意思決定)に必要な情報を収集す
るため、必要に応じ随時的・臨時的に行われる原価に関する分析と調査である。
建設業においては、建設機械導入の可否といった長期的で構造的な問題から、工
事案件受注の可否や建設資材の選択など短期的で業務的な問題まで、意思決定が
必要なケースが発生するが、その際、全社的な利益管理目的に鑑み、特殊原価調
査を活用すべきである。
②年間を通じて複数の工事に共通して発生する工事費用を、実際操業時間で個別
工事に賦課(表現としては配賦が正しい)することの問題点について説明、この
欠陥を補うためにどのような方法を適用するべきかについても触れること
工事間接費の実際発生額を配賦する実際配賦法を採用すると、工期の終了により
工事間接費の金額が確定しなければ、配賦作業を実施できず、配賦計算が遅延す
ることになる。また、工事間接費には固定費が多く含まれていることから、実際
配賦法によると工事間接費の配賦について、操業度の影響を受けてしまうことに
なる。予定配賦法や正常配賦法を用いることで、これら実際配賦法の欠点を克服
できる。

第7回
①原価計算制度における「原価の本質」の4つの要件を説明
原価計算制度における原価の一般概念は、「原価とは、経営における一定の給付
にかかわらせて、把握された財産又は用役の消費を、貨幣価値的に表したもので
ある」と定義されている。その原価の本質には、(1)原価は経済価値の消費であ
る。(2)原価は経営において作り出された一定の給付に転嫁される価値であり、
その給付にかかわらせて、把握されたものである。(3)原価は経営目的に関連し
たものである。(4)原価は正常的なものである。の4つが挙げられる。
②工事別原価を計算するに際して、年間の季節性の操業変動によって生ずる固定
費負担を平準化するためには、どのように措置することが適切か
工事間接費を配賦する際に、正常配賦法を採用すべきである。実際配賦法を採用
すると、繁忙期と閑散期において、操業度に大きな差があり、固定費負担につい
て大きな差が生じてしまう。正常配賦法では、月間ではなく、1年間、場合によ
っては2年から3年間に共通する配賦率の算定をするため、固定費負担を平準化
して配賦することが可能となる。

第8回
①収益の認識基準として工事進行基準と工事完成基準のいずれを適用するかによ
って、
原価計算制度にどのような影響が生ずるかについて
工事進行基準を採用する場合は、工事の進行に合わせ、実際に発生した原価及び
今後の発生見込額を機動的に修正し、最新の工事原価や完成工事高を把握できる
システムが必要となる。
一方、工事完成基準を採用する場合は、完成した工事だけが発注者に引き渡され、
完成工事高が計上されるため、工事の進行に合わせ、最新の工事原価や完成工事
高を把握する必要はないが、別の視点からのシステム構築が必要である。例えば、
工期の遅れ(未成工事支出金の増加)が資金繰りの悪化につながったり、実行予
算の目標原価と実際発生原価の乖離が利益を圧迫したりする可能性がるため、そ
のような状況を早期に把握できるシステムが有効である。
②現代企業におけるコスト・マネジメントについて、その原価企画、原価維持、
原価改善の機能の相違について
原価企画は設計段階で行われるもので、単なる原価低減ではなく、顧客ニーズを
反映した目標原価を設定するための取り組みである。具体的には、成行原価(技
術者によって見積もられ改善目標が加味されていない現状原価)と許容原価(ト
ップ・マネジメントから指示される希望原価)のすり合わせにより行われる。
原価維持と原価改善については、工事の施工段階で行われる取り組みである。原
価維持については、標準原価を維持できているかどうかは基準となり、原価改善
については、標準原価を上回る目標額を達成できたかどうかが基準となる。

第9回
①汎用の工事関係資機材を製造するメーカーの原価計算と対比して、建設工事の
原価計算の特性を説明しなさい。
凡用の工事関係資機材を製造するメーカーは、大量見込生産を実施しているため、
原価計算の手法は、総合原価計算が採用される。それに対し、建設工事の原価計
算は、典型的な受注産業(請負業)であるため、製造指図書により個々の工事番
号別に原価を集計する個別原価計算が採用される。
②(4②、17①と同趣旨)複数の工事に使用可能な型枠、山留用材、ロープ、シ
ート等の工事原価への賦課方法について説明しなさい。
仮設材料費の把握方法には、社内損料方式とすくい出し方式がある。社内損料方
式とは、あらかじめ当該材料等の使用による損耗分等の各工事負担分を使用日数
あたりについて予定し、後日、差異の調整をする方法である。
すくい出し方式とは材料等を工事の用に供した時点において、その取得価額の全
額を原価処理し、仮に、工事完了時において何らかの資産価値を有する場合に、
その評価額を当該工事原価から控除する方法である。

第10回
①工事契約に関する会計基準において、工事進捗度の算定を原価比例法で実施す
る場合の原価計算の役割について説明しなさい。
原価比例法とは、建設工事の発生原価を適正な方法によって計算・集計し、これ
を工事進捗度の基準とする方法である。原価比例法の分母は、実行予算を基礎と
する事前原価計算であり、分子は、経過期間に対応する事後原価計算を意味し、
この有機的な結合が適切な工事進捗度を担保することになる。
②施工のために直接雇用する作業者の労務費を計算するために、どのような消費
賃率が使われるか説明しなさい。
建設業においても、計算の迅速性という要請から、予定賃率を使用することは望
ましいが、できるだけ細分化された賃率を採用するべきである。なぜなら、建設
業においては、臨時的な労働者の比重が大きく、また工事の種類や工員の熟練度
により、消費賃率が大きく異なるからである。また、建設業では個別原価計算を
行うことが通常であるため、個別工事ごとに工事の種類や数量が把握しやすく、
予定賃率を細分化しても計算の迅速性を損なわれにくいからである