建設業経理士1級(原価計算)第1回~第33回の中で合格率が20%を下回っ
た回がいくつかありました。
どのような部分で得点しずらかったのか分析してみました。
 

第31回(15.25%)
第2問:正誤式ではなく穴埋め式であったため回答に時間を要した。また、出題
範囲も、原価計算基準の記述を直接問うものであり、計算問題中心の勉強として
いると普段意識しない部分である。さらに、紛らわしい選択肢が多く、回答を絞
り切れない受験生が多かったのではないか。
第3問:副費について集中的に問われたので、戸惑った受験生が多かった可能性
がある。
第4問:設備投資の意思決定問題であり、現状(新たな設備投資なし)と比較す
る問題ではなく、2つの設備投資案の比較であり、計算に時間を要する問題だっ
た。
回答の記載順にしたがっていけば、計算の方針が明らかになるという利点があっ
た半面、 計算式を記入させたり、不等式を解かせて有利な投資案を選ばせたり
と、時間がかかる出題であった。また、計算間違いを誘う伏線として、税金を考
慮するかどうか(問1のみ考慮せず)、会計上の利益と現金収支(キャッシュフ
ロー)を混在させている、現在価値にするかどうかも混在させているなど、受験
生泣かせの出題であった。問4以降を飛ばして時間に余裕があれば回答するとい
う方針も、第2問で時間を取られている状況の中では厳しかったと思われる。

第30回(11.99%)
第3問:補助部門費の階段式配布の問題であり、時間を要する上、1か所でもミ
スをすると点数がもらえない厳しい問題である。出題の順序も、用益消費量基準
で回答できる変動費を問2の後半に持ってくるなど、意地悪な設問であった。
第4問:業務的意思決定の問題であり、第3問や第5問で時間を浪費した頭では、
意味の取り違えや計算ミスを起こしやすい問題である。
第5問:例年のように、完成工事原価報告書と未成工事支出金勘定残高を回答す
るのではなく、工事原価計算書への記入を求められたため時間を要した。また、
縦計を計算する段階で、直接経費(問題で回答させていない項目)を足し忘れや
すいといった計算ミスが発生しやすい問題であった。さらに、508工事の完成
工事高(進捗率)が割り切れないのも、計算間違いかもという疑心暗鬼を生みや
すい設問である。

第28回(11.18%)
第3問:方針はわかりやすいが、数値が割り切れない、部分点が取れない、端数
処理に注意しないと回答がずれる、時間がかかる、途中の計算を間違うと、以後、
全く点にならない、といった過酷な問題であった。
第4問:金額の端数処理(切り捨て)に注意しないと、計算ができていても問4
の得点が得られない。
第5問:材料費の算定についての意図を読み解くのが大変であった。(1)年間
の予定資料のみで各材料の単価(予定価格)を求めることができ、(4)当月の材
料の使用状況により完成工事原価報告書を完成させることができる。副費は、外
部副費も内部副費も発生し、予定価格との差額も発生するが、副費配賦差異に該
当するのは、予定配賦率を採用する内部副費のみである点に注意。(外部副費は
実際配賦を行うとの記述があり、購入代価とともに材料消費価格差異に含まれる。


第26回(16.01%)
第3問:公式法変動予算では、固定費の配賦率は基準操業度によって変動するが、
変動費率は変動しない。この点を誤ると、問1しか点数獲得できない。
第4問:既存設備と新設備を比較した設備投資の優位性を判断する意思決定問題
であるが、残価の発生や売却損の売却益の発生があるため条件を整理する必要
ある。小問2の配点は高くないと予想して、捨て問題にすべきなのかもしれない。

第19回(19.09%)
第4問:設備の取換をリースによって行うか購入(ただし、銀行借り入れによる
利子発生)によって行うかの選択。状況説明が文字のみなので、ポイントになる
数値や条件の整理に注意を要する。
リース:期間終了後にリース物件は返却されるので、賃貸借と同じ。減価償却に
よる節税効果はないが、リース料に設備の維持修繕費が含まれている点に注意。
購入:銀行借入について分割返済が行われるため、利息の額が逓減していき、各
年度の金額がすべて異なる。したがって、リースの場合のように1年分の金額に
4年分の原価係数の合計額をかけるという簡易な計算方法ができない。小問3は
計算間違いをしやすいので注意。
第5問:材料費の消費単価が移動平均法となっているため注意を要する。

第18回(13.79%)
賃金支払、原価算入についての仕訳問題。完成工事高を求める第5問で労務費の
計算ができても、背後にある仕訳がしっかり理解できていないと、点数が取れな
いのではないか。なお、類似問題が第11回第3問として出題されています。
盲点になりそうなので、解説を書いてみます。
小問1:6月末の未払賃金の振替に関する仕訳
(次の小問2の段階で、前月に未払いだった6月21日~6月30日分が現実に支払わ
れる予定なので、その前にその分だけ賃金手当を減らしておく。すなわち貸方に
賃金手当を計上。相手方科目は、工事未払金。なぜなら、前月末時点の処理では
6月21日~6月30日の賃金は現実には支払われていないから。
小問2:支払賃金に関する仕訳
(賃金手当総額 ¥19,422,500 差引振込額 ¥17,624,617 源泉所得税 ¥925,
333 社会保険料 ¥872,550 という条件から、借方:賃金手当19,422,500、貸
方:当座預金 17,624,617←差引振込額という表現より当座預金と判断、預り金1,
793,883←925,333+872,550)
小問3:消費賃金に関する仕訳
(7月分の勤務実績に応じて予定単価に基づき原価算入する。その際には、直接
費として賦課するか、間接費とするのか分類する必要がある。なお、原価算入は
あくまで予定単価1500円を基準に行う。超過勤務の時間のみ1.25倍する。実際に
は勤務者ごとに時給も異なるので、差異の調整が必要。総勤務時間12,650時間を
分解すると次のようになる。間接時間で超勤単価35時間←時間外勤務のうち35 時
間は現場共通作業時間分。直接時間で超勤単価300-35=265時間←時間外勤務(7
月1日~7月31日)300時間。直接時間で通常単価11,550-265=11,285時間←工事
直接作業時間11,550 時間、間接時間で通常単価1,100-35=1065時間←現場共通
作業時間1,100時間。通常勤務の単価1500円、超過勤務単価1500円×1.25=1875円
を当てはめて金額を計算しすると次のようになる。間接時間の超勤65,625円、直
接時間の超勤496,875円、直接時間で通常勤務16,927,500円、間接時間で通常勤
務1,597,500円。借方:未成工事支出金496,875+16,927,500=17,424,375、工事
間接費65,625+1,597,500=1,663,125。貸方:賃金手当17,424,375+1,663,125=
19,087,500。)
小問4:7月末の未払賃金の計上に関する仕訳
(小問3の金額から、7月21日~7月31日の勤務分を抜き出す。定時内勤務(7月
21 日~7月31日)4,030 時間×1500円+時間外勤務(7月28日~7月31日)300 時
間×1875円=6,607,500円。借方:賃金手当 6,607,500、貸方:工事未払金 6,607,
500。ここで一つの疑問点が浮かび上がる。なぜ、小問3の段階で7月中の勤務
時間すべてを原価算入しているのに、再度、小問4の仕訳が必要なのか?これに
ついては、支払時期が異なるため、7月21日~7月31日の勤務分は、工事未払金6,
607,500円として、別枠としておくとしか表現しようがない。さらに、7月21日~
7月31日分の賃金が、現実に支払われる前に、現実に支払われる金額の工事未払
金を借方に立てて、7月21日~8月20日分の給与を受け入れる前準備をすることに
なる。前月(6月分)の工事未払金に対する小問1の処理がこれに該当する。前
月に未払いだった6月21日~6月30日分が現実に支払われる予定なので、その前に
その分だけ賃金手当を減らしておく。予定単価1500円、超勤単価1875円で積算し
計上した原価と実績との差額が差異の調整であり小問5の回答となる。)
小問5:賃率差異の計上に関する仕訳
(勤務時間数は、固まっているため、実績額との差は時給の差となる。6月中に
予定単価で計上されていた、すなわち、6月1日~6月30日の賃金として予定単
価で計上した金額から、6月21日~7月20日分の賃金が支払われる前に、前も
って未払賃金分として別枠にしておいた金額(6月末の未払賃金勘定残高)は6,
970,500円。実績に基づく6月21日~6月30日分の賃金額は6月21日~7月20
日分の賃金手当総額 19,422,500円-定時内勤務(7月1日~7月20日)8,320時間×
1500円=6,942,500円。6,970,500円>6,942,500円であるため、差額28,000円だ
け実績が少ない。前月の小問3の状況の時には、6月1日~7月20日の期間6,970,
500円を含む6月1日~6月31日の賃金について、「借方:未成工事支出金と工事
間接費。貸方:賃金」として仕訳を切っている。予定で計上した6月1日~7月20
日の期間の賃金6,970,500円が多すぎたので、「借方:賃金28,000円。貸方:賃
率差異28,000円(予定よりも実績が少なくすんだ貸方差異の状況)」の仕訳にな
る。)