こんばんは! 平野武蔵です!
忙しいやら体調不良やらで久しぶりのブログ更新になってしまいましたが、残念ながら自分で記事を書く時間と気力がまだありません。
従いまして今回は、私の友人、子泣き爺さんから先日届いた手紙を掲載させていただきたいと思います。
尚、掲載の許可は本人からいただいております。

拝啓

武蔵さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

いつぞやは「kamakura」座談会に呼んでくださり、ありがとう。
歳をとると、外に出るのが億劫になって仕方ないんじゃが、おかげさまで久方ぶりに楽しい時間を過ごすことができた。
わしはサザンがデビューして以来のファンじゃが、あの座談会のおかげで改めてサザンの、桑田さんの偉大さに気づくことができた。重ねお礼を申し上げたい。

ところで武蔵さんのブログを毎回楽しく読ませてもらっております。
読者の数は両手の指で十分足りる程度と言っておられたが、その一人がわしであることをここに申し添えておきたい。

さて、武蔵さんのブログも「kamakura」まで来たところで、次はぜひKUWATA BANDについて書いてみたらどうじゃろうか。
桑田さんのキャリアの中でもKUWATA BANDはわしがとりわけ気に入っておるバンドです。

機会があれば、また武蔵さんや美しいひろ子さんや妖怪の仲間たちとKUWATA BANDについて語り合いたいと思うのじゃが、先ほども述べた通り歳をとると身体が言うことを聞いてくれなくて困る。
だからと言ってはなんじゃが、今回はこの手紙でKUWATA BANDについて思うところを徒然なるままに書いてみたい。僭越かとは思うが、ぜひご一読いただければ幸いです。




KUWATA BAND結成の経緯

「たとえば取材なんかで写真撮ったりしてても分かるんだけど、ノってるグループってやっぱり凄いのね。だけど『KAMAKURA』をやってた頃のサザンの写真を見てると、それがないんだ。(中略)で、一人一人に刺激を与えるというのと同じように自分自身にも刺激を与えようということでクワタ・バンドというプロジェクトはやりだしたんだけど。
 まあ当然他のメンバーに関しても、お互いにこうなればいいなあってことで、「全員がソロ活動をやって、一つ一つが別個性として出てくれば理想的だね」っつったら、みんなノったの。「じゃ来年一年はやろう」と。」(桑田佳祐「ブルー・ノート・ケース」)


わしは思うのじゃが、「kamakura」制作の後、桑田さんはそれまでに経験したこともないような虚脱感を覚えていたのではないだろうか。
それは1800時間という長いレコーディング作業によるものだけでなく、「kamakura」という怪物が、ポップミュージックの領域そのものを拡大した偉業によるところも大きいと思う。
英国はポール・ウェラーのJam解散宣言ではないが、やれることはすべてやったという思いが、桑田さんはもちろん、メンバー全員にもあったのではないだろうか。
傑作をものしたにもかかわらず、「ノってるグループ」にあるはずの凄味を欠いていたのは、そのような心境が繁栄された結果じゃろう

サザンの長い歴史において解散の二文字は桑田さんの脳裏に何度か浮かんだかもしれぬが、この時もまたその危機にあったとわしは推測する。
しかし、桑田さんの意思で解散するにはサザンはあまりにも大きくなりすぎた。このときすでにサザンは「みんなの」ものであったから。

そこでどうするかとなったときに、上記の発言に行き着くわけじゃ。つまり、サザンの活動を1年間休止し、メンバー各々のソロ活動という刺激剤を導入することなった。
結果的に活動休止は3年近くに及ぶが、その間の桑田さんのソロ活動における最初のプロジェクトが「KUWATA BAND」だったというわけじゃ


メンバーについて

 

ボーカル:桑田佳祐、ギター:河内淳一、ベース:琢磨仁、キーボード:小島良喜、パーカッション:今野多久郎、ドラム:松田弘


ドラムはサザンから引き続き松田を招聘しているが、サザンが年の歳月をかけて演奏力を磨いていったバンドであるのに対して、KUWATA BANDはデビュー当初から最高レベルの演奏を聴かせる腕利きのミュージシャンの集合体であった

河内80年代の過剰とも言えるギターテク至上主義の時代にあって不足ない技術を備えておったし、琢磨氏のベースはチョッパーも巧みにタイトで力強いリズムを刻み、小島氏のキーボードにいたっては80年代において最良の洗練を音にされていた。今野氏は「ONE DAY」といったバラードからライブにおける高速パーカッションまで幅広い表現力を持ち、松田ロックのイメージに大きく寄り添う強力なビートを叩き出していた

サザンの演奏が堅実な選手による全員野球なら、KUWATA BANDはスター選手がそろったドリームチームであった。

いずれにせよ、一流の技術を備えたミュージシャンがアンサンブルとして融和しつつも、各々が強い存在感を放つバンドであったと個人的には感じている次第であります。



KUWATA BANDとサザンオールスターズはいかに違うか


クワタバンドのコンセプトは「日本のロックバンド」でありますが、どのようなコンセプトを掲げたところで、桑田さんが中心となってやる以上、サザンとの明らかな違いを形にすることは困難であったろうと思います。「ロック」はもちろんのことほとんどあらゆるジャンルをすでにサザンの活動で網羅していたからです。
4枚のシングルなどは、サザンでリリースされても違和感のない楽曲ですし、一枚だけのオリジナルアルバムも全曲英詞という点でサザンではなかった試みと言えますが、楽曲単位を見れば、すでに「Tarako」という全編英詞のシングルがあります
それでもサウンドの印象が違うとすれば、それは要するに演奏者の違いによるものでしかないと思われます

では、サザンとKUWATA BANDはバンド名とメンバー以外に違いはないのかと言えば、もちろんそうではありません。桑田氏はサザンの音楽を別なメンバーとやるためにわざわざKUWATA BANDを結成したわけではないので、当然違いはある。

それは、極言して言い表すと「遊び心」と「アマチュアリズム」という2つのコンセプトに集約できるのだはないでじゃろうか。
KUWATA BANDの活動をつぶさに検討していくといたるところに遊び心とアマチュアリズムがあふれておる。そして、それらが表現するのは「欧米ロックへのオマージュ」とでも言えましょう。サザンよりも、あからさまに、アマチュアリズムな態度で欧米ロックをおもちゃにしているとわしには感じられます。

例えば、KUWATA BANDには4枚のシングル、1枚のアルバム、1枚のライブアルバムがありますが、ジャケットは、サザンの斜に構えたそれとは対極にある、ロックの本場を意識したアメリカナイズど真ん中のパッケージであります

シングルの歌詞にはロックの名曲のタイトルがちりばめられておりますし、カップリングやライブでは、ロックの名曲をいくつかカバーしてる。このような試みはサザンでは見られず、またそぐわなかったとも言えましょう。

だいたいにおいて、サザンを8年やって栄華を極めた桑田英詞の曲だけでアルバムリリースするの遊び心がなければできなかったはずです。シリアスな彼は日本のミュージシャンが英詞で音楽をやることの限界に「綺麗」の時点で気づいていたからです

日本のミュージシャンとしてのアイデンティティと高いプロフェッショナル意識とが、ときには桑田氏の足かせとなり、窮屈さを感じていたこともおありだったかも知れません。しかし、その足かせを外したKUWATA BANDでは、ついにライブで桑田氏の口から「みんなのおかげで音楽生活がこんなに楽しいです!!」という発言まで飛び出すに至った。

まさに「遊び心」と「アマチュアリズム」の実践に裏打ちされた発言と言えましょう



KUWATA BANDの成果


KUWATA BANDはサザンでは成し遂げられなかったオリコンシングルチャートNo.1を19867月5日リリースの「スキップビート」で成し遂げました(サザンとしては19896月7日リリースの「さよならベイビー」でついにオリコンNo.1を獲得)。さらに、アルバム「NIPPON NO ROCK BAND」は日本レコード大賞の優秀アルバム賞を受けるなど、バンドとしてそのほか数多くの賞に恵まれました。

わずか1年の活動にもかかわらず、シングル4枚、アルバム1枚、ライブアルバム1枚、ライブ映像もリリースし、これ以上はないぐらいの成果を上げたわけです



KUWATA BANDについて感想


わしがKUWATA BANDについて好きなところと言えば、それはすでに述べました通りプロフェッショナルな演奏に宿るアマチュアリズムです。聴いていてこちらまで楽しい気分になります。

そして、アメリカナイズされたパブリックイメージ。アメリカンウェイ・オブ・ライフを目指した、ある意味悲しい戦後世代の妖怪として、このようなイメージにはどうしても弱いのです。

さらに、この頃の桑田氏は「kamakura」を通過し、才能、経験、体力の3要素において、その合計が最高得点に到達していたころであります。何をやってもすごいものしか出てこない桑田佳祐という人間の能力に、妖怪として畏怖を感じたものです。
 

これはいかん。つい長くなってしまいました。どうも歳をとると話がくどくなっていけません。そろそろ終わりにしたいと思います。

 

武蔵さん、どうかご自愛くださいませ。

またお会いしましょう。

お元気で。

 

敬具

子泣き爺」

BAN BAN BAN/ビクターエンタテインメント
¥1,080
Amazon.co.jp


スキップ・ビート/ビクターエンタテインメント
¥1,080
Amazon.co.jp
MERRY X’MAS IN SUMMER/ビクターエンタテインメント
¥1,080
Amazon.co.jp
ONE DAY/ビクターエンタテインメント
¥1,080
Amazon.co.jp


NIPPON NO ROCK BAND/ビクターエンタテインメント
¥2,365
Amazon.co.jp
ROCK CONCERT/ビクターエンタテインメント
¥3,086
Amazon.co.jp