誠実投票と戦略的投票、そしてオストロゴルスキーのパラドックス
明日は統一地方選前半の投票日です。選挙を大きく分けると、一人を選ぶ選挙と複数を選ぶ選挙があります。一人を選ぶ選挙の投票はシンプルです。基本的には勝たせたい人に投票する、ということになります(経済学では誠実投票と言います)。
一方で、2人区以上では、投票行動は複雑になります。
仮に選挙が2人区、候補が3人であるとして、まず、単純に好きな候補者に入れる、という方法があります。次に、強そうな候補がいて、その人が一番の選択肢なのだけれど、もう一人の当選者として入って欲しい人がいるとします。その場合にはこの、次善の選択肢に投票することもできます。また、絶対に当選してほしくない人がいるので、2番手になりそうな人は嫌いだけれど、この人に入れる、という投票行動もあります(経済学的には、これらを戦略的投票と言います)。
戦略的投票は、選挙に出る側としては嫌なものです。戦略的投票ではなく自分に入れてよ、と思うわけですが、有権者としては自分にとってそうであって欲しい議会の姿に近づけるためには戦略的投票が不可欠になります。
2人区ならまだこの程度の図式になりますが、これが市議選になると10人区とか40人区とかのいわゆる大選挙区になり、戦略的投票もかなり面倒になります。一つ言えることは、選挙においては他人の行動は見えないということ。よって、相手の行動を想像しながら戦略的投票を行う、という形になります。これは非常に面倒な選択ですから、「もういいよ、好きな人に入れるから」という形になりがちですね。
ちなみに、政党好きの人々は大選挙区なんて「政党」ごとの比例代表でいいよ、という発想に陥りがちです。政治学者には政党が大好きな方が多いです。しかしながら、政党は政策をパッケージで実施しますし、有権者と政党の相性というものは実は非常に難しいです(ちなみに、政策をパッケージで判断させられると、おかしなことになる可能性があることの経済学的な分析を広く紹介したのがオストロゴルスキーという人で、その理論は広く紹介しただけなのにwオストロゴルスキーのパラドックスとして知られています)。
比例代表で政党に割り振ればいい、というのはそれでも実際に国政では実施されている手法ですが、地域性が大きな意味を持つ地方政治ではきわめて乱暴で、非現実的な議論であることが分かります。
そこで意味を持つのが地域政党です。実在するほとんどの地域政党は法的には「政党」ではありません。「政党」はたとえば政党助成法で下記のとおり定められています。
「政党助成法
(政党の定義)
第二条 この法律において「政党」とは、政治団体(政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)第三条第一項に規定する政治団体をいう。以下同じ。)のうち、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 当該政治団体に所属する衆議院議員又は参議院議員を五人以上有するもの
二 前号の規定に該当する政治団体に所属していない衆議院議員又は参議院議員を有するもので、直近において行われた衆議院議員の総選挙(以下単に「総選挙」という。)における小選挙区選出議員の選挙若しくは比例代表選出議員の選挙又は直近において行われた参議院議員の通常選挙(以下単に「通常選挙」という。)若しくは当該通常選挙の直近において行われた通常選挙における比例代表選出議員の選挙若しくは選挙区選出議員の選挙における当該政治団体の得票総数が当該選挙における有効投票の総数の百分の二以上であるもの
2 前項各号の規定は、他の政党(政治資金規正法第六条第一項(同条第五項において準用する場合を含む。)の規定により政党である旨の届出をしたものに限る。)に所属している衆議院議員又は参議院議員が所属している政治団体については、適用しない。」
国政政党は地域ごとに支部を持ち、ある程度は地域性を踏まえて活動しますが、基本的には中央と地方が縦の関係になっています。つまり、地域性の政策判断は中央の判断に依拠する、ということです。
それでいいよ、という方は国政政党から比例で選出される地方議会を容認するかもしれませんが、私の政治経験から言って、それで全部が決まる状態というのは非現実的でしょう。そこで、地域政党も政党として法的根拠を与え、地域政党も含めた比例代表で地方議会の議席を配分する、という考え方が出てきます。これは非常に合理的な考え方である、と直感的にご理解いただけるではないかと思います。
もちろん、実際には国政政党の「政党助成」は巨大な権益であり、利権ですから、国政政党が地域政党をあらためて法的に定めて、地方議員選挙にこれが適用される、という未来は閉ざされています。
ただ、思考実験としてはおもしろいのではないかと思います。
いずれにしても、こんな妄想をしながら、黙々と戦略的投票に勤しむ統一地方選。ぜひとも一票を無駄にしないようにしましょう。