読売記事「『維新の支持層は低所得者』は本当か?」を読む~菅直人氏の勘違いと都市住民の悩み | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

読売記事「『維新の支持層は低所得者』は本当か?」を読む~菅直人氏の勘違いと都市住民の悩み

私の古巣(大学3年生、4年生のときのバイト先)の読売新聞世論調査部が良い仕事をしている。
記事の概要は、無作為抽出による世論調査で、政党支持と世帯年収との関係をクロス分析したものである。
記事のきっかけとなったのが、菅直人元首相による「維新の『役人天国』批判に低所得者層の人たちが共鳴し、支持を広げたとの分析が有力」と言うツイートであったため、記事の中心が全国における維新と立憲の支持率と年収の関係になっているのは仕方がないことだが、この調査の本当の面白さは、各政党の支持率と世帯年収との関係の最新(といっても1月現在だが)のデータにある。
まず、維新と立憲の比較である。
全国で見ると、日本維新の会はむしろ年収800万円以上の高所得者層で支持が大きく、それに次いで年収200万円未満の層でも支持されていることがわかる。
世帯年収が低いほど支持されている立憲とは明らかに傾向が異なる。
そして、近畿地方では、世帯年収が低い層の支持が全国よりさらに厚いことがわかる。
記事ではこれを「近畿では特有の『V字形』」と呼んでいる。
この記事の秀逸なところは、自民党と日本維新の会の支持率の比較が全国、近畿のみ、近畿以外の3通りでビジュアルから比較できるという点にある。
近畿地方における維新の支持層とその他の地域での維新の支持層は明らかに異なっていると言うことが、このフラッシュで改めてビジュアルに理解することができる。
自民党は、基本的に高所得者向けの政党ではあるが、都市部では所得が低い層からの支持も集めており、これを指摘した言説は、いわゆる「B層」説に代表されるが多数存在する。本稿は論文ではないので、引用は省くが、すぐに見つかると思う。
自民党の選挙戦略は、地方と都市部では異なる。地方では、いわゆる保守層を構成する様々な団体を組織として抱え込む選挙戦である。この戦略により、自民党は参議院の1人区に代表される地方選挙区で絶大な強さを誇っている。
都市部においては、それだけでは十分な議席を得ることができないため、この組織型の選挙と合わせていわゆるネット等を駆使したいわゆる空中戦型の選挙戦略を充実させている。この戦略により、都市部の自民党は、地方ほどは盤石ではないが、それなりの議席を確保することに成功している。
あらためて、記事のデータを踏まえると、近畿地方における維新の集票構造は、都市部における自民の集票構造と比較的類似しているのではないかと思われる。
記事の後半では、立憲民主党こそが民衆が低い窓からの指示により得票していることを明確にデータで裏付けている。これは極めて当然のことで、そもそも一見の支持母体である労働組合は現場の従業員の収入をはじめとする権利を守るための組織であり、立憲の政策も基本的には低所得者への対応が手厚い。
さらに興味深いのは、この記事の末尾の立憲支持に絞った分析である。
年収と支持率の関係は非常に密接であり、この調査では、菅直人元首相の冒頭にあげた仮説が明確に誤りであることが立証されている。
立憲の戦略の課題は、労組に組織された低所得者層と、労組に組織されない低所得者層の双方から支持されるような政策と、所属する議員たちの言動や思想の一致が十分でないという点にある。菅直人氏のツイートはそれを象徴するものである。
立憲は特に、政策と支持層の関係性をこのようなデータから明確に認識して選挙に臨む必要がある。

記事からデータを引用するが、
「200万円未満」      17%
「200万~400万円未満」 31%
「400万~600万円未満」 19%
であるから、立憲が高所得者層をわざわざ狙いに行くメリットはないのである。

また、今回の調査からも、改めて自民党による都市部における年収の低い層や無党派層からの支持の取り込みが成功していることが裏付けられたと言えるだろう。
もっとも、自民党の政策は、たくさんの業界団体や地方における各種団体の支持を得るために、いわゆるパッチワークになっており、総花的である。ただ、そのパッケージをトータルで概観すると、やはり、地方重視であることは明確である。よって、都市部の高所得者にとっては魅力がないのは間違いない。
都市部の高所得者層にとっては、国政選挙における選択肢は自民及び維新となる(地方選挙では無所属、あるいは地域政党の候補がさらにターゲットとなる)が、いずれも都市部の高所得者層にはさほど魅力的な政策は掲げていない。それでも行き場のない票は結果的に自民と維新に流れ込んでいる。
この都市部に存在する比較的所得の高い層は、国政選挙で常に投票先について悩むことになる。2017年の都議選における都民ファーストの大躍進は、まさにこの層の取り込みに成功した1つの事例であると言えるだろう。ただ、都市部における高所得者層といってもこれまた多数のクラスターに分かれており、決して思想的に1枚岩とは言えない。例えば、高所得のサラリーマンと、いわゆる不動産持ちの人々では、好む政策は大きく異なる。
都民ファーストは、小池知事とともに東京における執行部と議会の両方を押さえることに一度は成功したが、この2つの層の双方を満足させ得る政策と言う点で十分な成果が上げられず、2021年の都議選では大幅に議席を減らした。
維新の大阪での成功とは好対照である。
記事の内容からはお話が大きくそれてしまったので元に戻す。
参議院選直前期となり、改めて各種の世論調査を見ると、よほどのことがない限り、政権与党優位の構図は揺るがないのではないか。また、立憲を中心とする野党連合の結束は明らかに緩んでおり、このまま選挙が進んでいくと、おそらく与党側の勝利となることであろう。
野党側に勝機があるとすれば、この記事にも表れているような本来の支持層に愚直に訴えるという、当たり前の戦略を徹底するとともに、比較的支持層の重なる野党連合の結束を固め候補者調整を徹底するしかない。
維新は、自らを都市型政党であるという認識は持っているわけだが、そこを純化しすぎると、支持を地方に広げることはままならない。一方で、都市の住民としては、維新がどこまで本気で都市の抱える課題や都市住民の抱える課題に本気で向き合ってくれるかという点で、半信半疑のところがある。都市住民はそこを見極めながら投票先を決めることになる。
記事をあらためて読みながら、青森弁や秋田弁地区への電話調査に泣かされ、歌舞伎町での面接調査に泣かされた日々を懐かしく思い出した。
「維新の支持層は低所得者」は本当か?<上>

「維新の支持層は低所得者」は本当か?<下>