吉川徹『学歴社会のローカル・トラック』を読む | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

吉川徹『学歴社会のローカル・トラック』を読む

昨日が埼玉県立高校の発表でしたね。受験生とご家族はというと、倍率が高い高校が結構多いので、悲喜こもごもかとは思いますが、地方と違って出身高校、特に県立高校がどこかとかさほど言われないのが埼玉のいいところ。であれば、置かれた場所で淡々と努力すればいいのだと思います。
そして、高校はたった3年間ですが、結構濃い思い出が残る3年間になります。どん欲に楽しむ心意気で。
ここのところ、社会学の古典的?名著・吉川徹『学歴社会のローカル・トラック』を味読しました。
地域唯一の(後期)中等教育機関である島根県立横田高校の国公立進学クラスA組の卒業生(1992年入学)がどのような人生を辿っていくか10年間追い、社会学的に分析したものです。
私と近い世代の若者たちのライフヒストリーが克明に記されていて、読んでいてタイムスリップのような感覚を覚えるとともに、いわゆるへき地からの大学進学というライフイベントの意味合いや地域における人材育成の意味を考えさせられ、大変参考になりました。
一人ひとりの個人は自ら進路を選び、自らの才覚や描く将来層を目指して生きて行くというのが建前論的には大前提でしょう。しかしながら、実際には地域には地域の人材育成の論理があり、家庭には家庭の事情があり、国家という規模で見ても、人材育成のあり方は重要な課題です。
実際に本書の登場人物たちは、山間部の島根県立高校の課せられた役割を踏まえた学校への人事配置等により地域資源が投入された生徒たちです。島根方式と著者が呼ぶ、中山間部で最適化された学力別指導のノウハウ等により、公共により選抜され、鍛えられた、地域社会におけるいわば未来の幹部候補生たちです。
著者は、その彼らの自己肯定感や倫理観の変化を数字で追いつつ、インタビューにより一人ひとりの内面の変化にも目を配りつつ島根方式の機能や成果を検証して行きます。
そこからは私が生まれ育った近畿圏の高校とも、その周辺でより都会に近い岡山や広島の高校とも違う、島根ならではの人の流れや人生が読み取れるのです。
一方で、本書にある地方公立高校の進路指導の在り方や学習指導の在り方は、今流行りの「自称進学校」的な生徒への指導の在り方の原型のような物が垣間見られるのも印象的でした。
ちょうど先日、YAHOOニュースで自称進学校批判の記事がたくさんのビューを集め、それに共感するような声も多数見られました。ただ、地方の県教委が都会の有名私大にではなく、地元大学に人を送り込むことを志向する背景にある、これまで作ってきた人の流れの実績というものが本書から読み取れたのは大きな収穫です。
さらには、自らは島根の都市部である松江の高校を卒業した著者ならではの彼らへの視線は愛情に満ちていて読んでいてホッとする著作でした。
今後、地方の若者がどのように次世代にバトンをつないでいくのか、どのようにしたらつないでいけるのか、これは私の現在のテーマでもありますが、考えたい方にお勧めできる一冊です。
ちなみに、webでも読めるので、興味がある方はどうぞ。

*横田高校は「しまね留学」の対象校です。寮がありますので、全国から出願可能です。