朝霞「丸沼芸術の森」とトム・クルーズ映画 | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

朝霞「丸沼芸術の森」とトム・クルーズ映画

【映画のネタバレあり】

トム・クルーズ主演の映画「オブリビオン」をひさびさに動画配信で見ました。2070年代が舞台の近未来SF作品で、宇宙人により侵略された後の地球がテーマ。非常に美しい映像世界の作品です。
この映画はアンドリュー・ワイエスの「クリスティーナの世界」という名画が大きな役割を果たしている作品。クリスティーナはアメリカの寒村に生きた下肢に障害のある女性。彼女は車椅子を拒み、地を這って生活していました。その彼女の力強い人生を描いた独特の世界観のある作品として、特にアメリカでは大変有名です。

この絵の役割はというと、作品のクライマックスのカギとなっています。

地球はエイリアンに攻撃され、何とか撃退したものの、人類はやむなくエイリアンとの核戦争で荒れ果てた地球を捨て、土星の月タイタンに移住します。そして、地球に残って海水を吸い上げる巨大プラントを侵略宇宙人の生き残りによるゲリラ攻撃から守る警備ドローンの整備を続けるジャック(トム・クルーズ)とヴィカは任務を終えあと数日で「帰還」しようというまさにそのとき、そこから物語が始まります。

ジャックは時々夢を見ます。それは在りし日の地球の日常。エンパイアステートビルの屋上展望台の記憶など。

そして、地球に残る昔の日々の残滓や残骸を懐かしむのです。

私たちは大きな災害や人の死などに直面した時、「あの日」を懐かしむことがよくあります。そして、ため息をつきながら「あの日」へのフラッシュバックを乗り越えて、人は未来に向けて再び歩き始める。

ただ、ジャックの夢はまるで無限ループのように繰り返されているようです。


さて、ジャックはパトロール中に、墜落した宇宙船を発見。ところが味方のはずのドローンが宇宙船の船内カプセルの生き残りを殺戮。唯一、ジュリア(オルガ・キュリレンコ)を助け出します。彼女に消されたはずの過去の記憶の何かを見たジャック。

やがて、廃墟の屋上で「Who are you?」と問い詰めるジャック。涙ぐんでジュリアは「I am your wife」。何度も夢に見た思い出へのフラッシュバック。何とその廃墟は…。


今までの話は全部嘘。実は自分は本物のジャックではなく、60年前の戦闘で的に捕縛されたジャックのクローンであり、敵のパシリとして人類の生き残り、ゲリラを殺す存在だったのです。しかし、クローンながらジャックは人類の過去に郷愁を抱き、最終的には人類のゲリラの一人として戦う。

その引き金となったのがこの作品、というわけです。

 

オブリビオンはoblivion、日本語だと忘れられた状態、忘れられること、大赦ぐらいの意味だそうです。

まさに、クローンではある彼がクローンなのに、忘れていた、つまり残っていたものの、顕在化していなかった記憶が彼を人類の側に引き戻したのです。その象徴がこの「クリスティーナの世界」という作品なのです。まさにアメリカ。日本人だとこの絵ではアメリカ人の受ける感銘というのはちょっとわかりませんが、アメリカを日本に置き換えるとこの絵ぐらい有名だと思います。

このワイエスの作品、習作がお隣朝霞の「丸沼芸術の森」にあるんです。
丸沼芸術の森さんには和光市もお世話になっていて、市内での展示に力を貸していただいたこともあります。

 (C) Andrew Wyeth
初めてこの作品を見たとき、何も予備知識無しにいきなりトム・クルーズとオルガ・キュリレンコがこの絵を見るシーンが出てきたので度肝を抜かれました。「あれ?これは?見たことがある!」と。
まあ、考えてみればアメリカの現代画家では最高の評価を受ける画家の代表作ですから、出ても来るでしょうけれどね。
アマゾンプライムでしばらくはご覧いただけるようなので、和光市民もぜひ、ご覧いただき、それを踏まえていずれ開かれるワイエス展をご覧いただけるとおもしろいですよ。