デービッド・アトキンソンさんが語る「日本の課題」
介護保険制度の導入にあたり、市町村がより良い仕組みを作るために共に研究し、交流するための組織「福祉自治体ユニット」。その後、組織を改めて活動してきましたが、昨日、発展的に「特定非営利活動法人 地域共生政策自治体連携機構」を立ち上げることとなりました。
加藤厚生労働大臣、高市総務大臣を来賓に迎えた総会の後、首長勉強会があり、まち・ひと・しごと創生本部の木下地方創生統括官の講演、その後、デービッド・アトキンソンさんの講演でした。
アトキンソンさんの講演については面白かったのでメモをお示しします。
以下、講演メモ
日本の課題は生産性を上げること。
GDP=人数×生産性
よく、日本は戦後ゼロから始まり、高度経済成長により先進国の仲間入りをした、と言われ、教科書にも書かれているが、これは妄想。先の大戦の直前に日本はすでに世界第6位(5位のフランスとはほぼ同等)の経済規模を誇る先進国だった。それが戦後のベビーブームによる人口増により、世界第2位の経済規模になった。
また、明治維新による文明開化で急速に発展したというのもウソ。日本は江戸末期には識字率など先進国と同等以上で、そこに西洋式の仕組みを取り入れ、人口も増えたから、当然に経済が成長しただけ。
ことほど左様に経済規模は人数で決まる。
では、これからの日本経済はどうなるか、妄想ではなくエビデンスで考えてみる。
これから2060年までに、総人口は31.5%減り、生産年齢人口に至っては42.5%減る。
だから、同じ経済規模を維持するには、総人口あたり46%、生産年齢人口あたり73.9%生産性を伸ばすしかない。
ちなみに他の国も人口減じゃないか、という言説があるが、イタリアやスペインでマイナス5%、ドイツと韓国でマイナス8%だから縮小の規模や率が違う。
そして、なんらかの方法で人口を維持すれば、と言うが、そのためには適齢期の全員が結婚し、全員が同様に子どもを産んだとして4.5人必要。今の社会と同じ状況なら7.2人必要だから、これは荒唐無稽な話になってくる。
その分移民を、というのもありえない規模。
高齢者も働くから、という話もあるが、40代をピークとすると、人の生産性は50代が90%、60代なら70%、70代なら30%に過ぎない。
日本の生産性は1993年から横ばい。特に伸びていないのが「全要素生産性」、いわゆる技術、スキル、ブランド、特許、経営のうまさなど。ここを高めなければならない。
日本企業の生産性向上に足りないのがentrepreneurshipであり、これは「企業家精神」ではなく「新しいことをしよう」と決めること。これは経営者の仕事。
日本企業はここが足りないのに「最先端技術で勝つ」みたいなことを言っている。でも、先進国で最も多くの特許を取得し、それを世界一死蔵している。
私はよく「最先端技術です極楽浄土に行けますね!」と言って嫌われている。
統計データによると、その国の輸出比率が高いほど生産性は高い。輸出とは生産した余剰を海外に売ること(典型は日本のインバウンド)。
そして、日本は比率で言うと、先進国一の「輸出小国」。日本は人口規模が大きいから輸出の量が大きく見えるだけ。
日本は輸出大国を目指すべき。
生産性と企業の規模は相関関係がある。生産性も中小企業は低い。日本は中小企業ばかり。アメリカ人の場合、労働者の半分は250人以上の企業で働いている。日本はその3分の1。
1963年の中小企業基本法により日本は成長しない中小企業だらけになった。これがスケールメリットに逆行し、非効率をもたらしている。10人未満の会社では有給も育休もろくすっぽ取れない。
ただ、中小企業を倒産させるのは非効率。M&Aなどにより合併などの経営統合を進める必要がある。
最低賃金と生産性には強い相関がある。そして、先進国では最低賃金を引き上げて生産性向上というエビデンスを得ている。
(例 イギリス)
特別広い国、交通不便の国を除き、最低賃金は全国一律が基本。日本は例外。そして、地方から若者が流出する要因も賃金の差。
そして、日本の最低賃金は人材の質の割には異常に低い。日本の経営者は質の高い労働者を不当に安く使っている。最近、人手不足と言うけれど、賃金が高い会社には人が集まっている。出せないなら経営統合か倒産ということになる。ちなみに最低賃金の引き上げで会社が潰れるようなことはまずない。
要は伸びる会社を伸ばすこと。
日本企業は、先進国ではダントツに人材育成に金をかけていない。なぜなら、中小企業が多くて金と時間をかけられないから。人材育成のためには会社が大きくなるしかない。