イチロー・カワチ『命の格差は止められるか』~公衆衛生の最適な入門書 | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

イチロー・カワチ『命の格差は止められるか』~公衆衛生の最適な入門書

冒頭申し上げると、公衆衛生のまとまった文献を読んだことがない政治家、行政官、介護関係者がおられましたら、本書は一番手軽な入門書なので、ぜひ手にとってお読みください。
ちなみに、私は正統的な公衆衛生の勉強をしない政治家は即刻職を辞するべきだと思っています。

さてさて、オーストラリアで育ち、アメリカで活躍する公衆衛生学者、イチロー カワチさんの著書「命の格差は止められるか: ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業」を読みました。
印象的だったのは格差社会アメリカでは、お金持ちも多額の医療費をかけてなお、寿命が短いという現実。また、同じような階層の人の追跡調査でアメリカに移住すると肥満になる、という調査結果も興味深かった。そういう発想はなかったので、非常に参考になりました。
逆に日本社会には健康、長寿のいくつもの要因があり、知恵がある、という指摘、一つひとつは目新しいものではないのですが、いわゆるご近所や家族等々のご縁などのソーシャルキャピタルの大切さというところについて、あらためて認識させられました。日常生活圏域という地域を中心に施策を回し、地域の縁を確かなものにして行こう、という私の方向性に裏打ちをいただいたように感じました。
もう一つ、おもしろいなあ、と思ったのが「日本は企業も人々の健康を思っている」という趣旨の話。その中で「アメリカでは飴が個装になっておらず、まとめて5個も10個も口に入れられる、日本の飴は個装だから、それができない」というお話。そもそも日本人は飴は1回1個ずつであり、個装とか関係ないよなあ、といったんは思ったのですが、これ、鶏と卵ですよね。もちろん、個別の企業がそういうことを考えているというより、保存性、利便性、付加価値なのでしょうが、非常に面白い示唆をいただきました。
というか、飴を何個も口に入れて効用はそれほど上がるのでしょうか!?限界効用が逓減する典型のように思えるのですが、そもそも人は合理的な行動をする面と瞬発的に行動をする面があり、そこに立脚する必要がある、という本書の示唆とも繋がるものがあるのかもしれません。

ちなみに、本書のきっかけの一つが朝日新聞の錦光山記者との出会い、ということが末尾に記されていました。エリート左翼が比較的多い朝日において、個性派、独特の問題意識といい意味でのゆるさを持つ彼女の存在はある種、異彩を放っていて、要注目なのですが、併せて彼女がハーバード在学中に発信した記事も併せてお読みいただくとストーリーがつながるように思います。

冒頭の話に戻りますが、少し前にある会議である政治家から、忘れられない発言がありました。「資料にポピュレーションアプローチという言葉があるが、こういうわけのわからん言葉を使うのはいかがなものか」というもの。もちろん、資料に注釈を付けなかった運営は良くないですが、あきらかに、くだんの政治家氏はこの「ポピュレーションアプローチ」という言葉を知らなかったんですよね。公衆衛生の本を読むと避けては通れないこの単語、冒頭のカテゴリーの方でこの単語に反応できなかった方はぜひ、お読みくださいね。