スポーツのジュニア強化と格差社会
1.卓球の水谷選手の活躍はジュニア強化の「成果」
オリンピックの卓球男子で大活躍した水谷選手について、2001大阪卓球選手権の惨敗を踏まえて日本協会が行ったジュニア強化の一期生である、ということが取り上げられています。
http://www.hochi.co.jp/sports/ballsports/20160813-OHT1T50077.html
実は、今回のオリンピックでの日本勢の活躍も各種目競技団体や文部科学省が推進しているジュニア強化の成果が出た、というのが事実のようです。
2.差が出る「ジュニアからやっているか」
先般、とある競技のオリンピアンとお話した際、海外勢との差は、と問うたところ、「ジュニアからやっているか、というのは無視できないと思います」という返事が返ってきました。
この選手の競技はどちらかというと国内ではマイナーな競技であり、この選手も高校までは別の競技の選手であり、群を抜く才能を持ちながら、オリンピックでは入賞はできませんでした。
この選手に「今回のオリンピックの日本勢の躍進はやはり、ジュニア強化が効いていますかね?」とあらためてうかがうと、まあ、当然ですが「そう思います」という答えでした。
3.ジュニアから始めなければ間に合わない
さて、これだけをもって「ジュニア強化=オリンピック勝利」という方程式が完成するわけではないのですが、少なくとも、世間の動向としては小学校時代から競技を絞り込んで鍛え、その中から選ばれたエリートをさらに鍛えて世界トップに持っていく、という流れはもう、決定的なのだろうな、と感じました。
中学の部活で頭角を表し、全国、さらにはオリンピック、というルートの時代、多くの子どもたちにオリンピック選手への扉が開かれていた、と思います。しかし、いま、中学の部活に入ると経験者が「どーん」といて、中学デビュー組は補欠、というのが多いようです。となると、ジュニアの段階での鍛練に参加できる家庭以外に開かれる門戸は限りなく狭いことになります。
4. 「労働者階級の子供は芸能人にもサッカー選手にもなれない時代」
これはスポーツに限りません。お子さんをインターナショナルスクールに入れるならもっと早くからの準備が必要ですし、中学受験コースも今やスタートは3年生です。
昨年、在英のライターのブレイディみかこさんが「労働者階級の子供は芸能人にもサッカー選手にもなれない時代」という記事
http://bylines.news.yahoo.co.jp/bradymikako/20150226-00043362/
の中で「オスカーを受賞したレッドメインは名門イートン校でウィリアム王子の「ご学友」だった俳優だ。カンバーバッチもイートンと並ぶ名門私立のハーロウ校(ウィンストン・チャーチルを含む7人の英国首相を輩出)の出身である。英国では公立校は学費無料だが、私立校の学費は平均で年間200~300万円。レッドメインやカンバーバッチが行った学校はその中でも特に一握りの特権階級の子供たちしか通えない学校であり、今や俳優業まで政治家のように超エリートしか就けない職業になったのかと言われているのだ。」と書いて衝撃を与えたけれど、日本でもそういう時代が確実に来ているのだな、と思うと非常に暗い気持ちにもなります。
5.格差の固定化と戦うためにやれることはやりたいけれど…
これはもちろん、先に触れたようにスポーツや芸能界だけの現象ではないわけです。
日本のスポーツの振興のためには早期の選抜と強化は不可欠だと思います。この流れは変えられないでしょう。
ただ、政治の世界の人間として、こういう流れに対して公教育や役所ができることはなんだろうか、とあらためて思いました。
もちろん、貧困対策、学力対策、運動能力の開発のモデル校など、可能な限り手を打っているところではあります。しかし、公で、税でできることには限界があります。海外のような固定化された階級社会が我が国全体を覆うとしたら、そんな未来は嫌だし、そうならないよう努力はしますが、それにしても我々はなんとも難しい時代に生まれたものです。