いま、話題の「企業の内部留保」って?(参考となる文献を追記しました) | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

いま、話題の「企業の内部留保」って?(参考となる文献を追記しました)

いま、ちょっと話題なので内部留保について考えてみましょうか。
なお、最後の内部留保に関する推計は与太話と受け止めてください。


① 内部留保って何ですか⇒株主のカネ
内部留保は正式な財務諸表(決算書)の項目ではありません。簡単に言うと、会社が一年間経営をして、全部の収益から全部の費用を引いて、残ったお金が純利益。そこから株主への配当と役員のボーナスを引いたものが内部留保です。日本の株式会社制度では、内部留保をゼロにすることはできません。法定準備金という制度があり、利益の一部は利益準備金として会社にプールされなければならないことになっています。

一口で言うと、これは株式会社が有限責任、つまり会社の株主は、会社が倒産しても出資がパーになるだけで、それ以上は責任追及されない、という仕組みだからです。つまり、会社に金を貸す人を保護するために、会社がピンチになった時のバッファーを持たせる仕組みが法定準備金なのです。
制度の背景には「株主と役員は年度ごとに利益を山分けして、あとは何も残さないのではないか。となると会社の債権者はどうなるのか」という猜疑心があるわけです。
いずれにしても、内部留保は会社の持ち主である株主とその代理である役員が純利益の中から取り分を分け合った残りという位置づけができますね。
この内部留保ですが、会社の方針によって積極的に積み上げることもあります。たとえば、急成長中の企業では常に資金不足という局面になります。設備が追い付かないとか、研究開発費がかさむとか、いろいろと理由がありますが、そうなると、配当は待ってもらい、内部留保によりそのようなところへの投資をする、ということが株主のためになることもありうるし、株主もまた、会社の成長を優先していい、という判断をする可能性が高くなります。
つまり、内部留保は会社のオーナーである株主のカネではあるものの、自由には処分できないカネであったり、一時的に戦略的に会社内部にプールした資金でもあったりする、ということなのです。
ちなみに、内部留保でなく給与で払え、という言説がありますが、給与と内部留保の違いは、給与は経費であり、内部留保は給与などの経費を差し引いた後の利益のうち配当しなかった部分である、という違いがあります。給与にするかどうかは経営者が決め、内部留保か配当化は「建前」上は株主が決めます。
そのカネに手を突っ込もうとするのが一部の国政政治家ですから、やや社会主義の臭いがしますね。もちろん、資本と労働の取り分のバトルというのは永遠の課題ではあります。


② 内部留保は現金か⇒ご冗談を。資産全体に溶けているんです
先に述べたように内部留保とは、キャッシュでも預金でもありません。
そもそも内部留保と俗称される利益準備金等は単なる資金の調達源泉を表すキーワードにすぎません。
バランスシートを見ると、左には資産の活用状況があり、右には資金の調達源泉の内訳が示されています。そして、右と左はトータルでは同じ金額になりますが、それぞれは関係なく、ある資金がある資産の紐づけられる、ということはないのです。
つまり、内部留保はほかの資金源とともに全体として溶けていて、現金でもあり、設備でもあり、在庫でもあるわけです。
ですから、仮に労働分配率を上げることを強制されたとしても、現金は作らなければならない可能性が高いでしょう。
となると、在庫を減らしますか?現金化は難しいですよ。不良在庫だったらどうなりますか?
では、施設を売り払いますか?いや、会社が稼ぐベースが奪われますよ。
ということで、内部留保というと現金預金をイメージする人が多いようですが、それは違うんだよ、というお話でした。


③ 現実的に(できるかどうかは別にして)内部留保を吐き出させるとしたらどれくらいなら可能か
仮に政権が税制等で無理やり内部留保を吐き出させようとしたら、どの程度は可能なのでしょうか。
これはソフトバンクモバイルの有価証券報告書のバランスシートです。現金預金÷資産合計を計算してみてください。
http://cdn.softbank.jp/…/a…/finance/data/report/pdf/sr25.pdf


今度は、本田技研の暦年ごとのバランスシートです。これも割ってみてください。
http://www.honda.co.jp/…/financi…/quarterly_yearly/bs_y.html
どちらも1割前後だということがわかります。

まあ、業種によってかなりいろいろあるのですが、総資産のうち現金預金というのは1割ぐらいである、と仮定しましょう。とすると、どこかの政党が大企業の内部留保は320兆円だと宣伝しているので、内部留保についても1割が現金預金とざっくり考えても大きく外すことはない、と考えることができます。つまり32兆円です。これが一年でためたのではない、何年、何十年もの企業活動で蓄積された内部留保のうちの現金預金の部分です。

???何に似ているって?はい。いわゆる民主党政権の「埋蔵金」ですね。
無責任な政党は「320兆円のほんの一部を吐き出させたら賃上げができて景気が良くなります」なんてことを言いますが、仮に社会主義云々は別にして、活用できるのは1割の32兆円。民主党の言っていた埋蔵金との比較で言ってもさほど大きくはない、ということがわかります(ちなみに、日本の年間のGDPは500兆円程度、国内の給与は全部足すと年間200兆円ぐらいです)。
何より、この話はやはり、どこかで聞いた埋蔵金と似ている、というのが私のとらえ方です。


くれぐれも、大変雑な計算であり、与太話ととらえていただくべき数字だということはご理解いただければと思います。


とりとめのない話になりましたが、内部留保は基本的には株主のカネであり、債権者保護の原資であり、現金だけでなく、会社のあらゆる資産に溶けているものであり、がんばって無理やり吐き出させるにしても30兆円かそこら(数字はいいかげんです)、しかも、埋蔵金と同じで使ってしまったら終わり、というものだ、ということがおぼろげながらも共有できたのではないかと思います。

追記 鈴木絢子「企業の内部留保をめぐる議論」『調査と情報 836号』(国立国会図書館、2014.11)
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8795835_po_0836.pdf?contentNo=1
これで本論点の基本的な要素は尽きていますね。
そろそろ、愚かなプロパガンダはやめて、論文の6頁(国際的には内部留保ではなく、現預金が議論されるため、内部留保のデータはない)じゃないですが、国際的に通用する議論を!