「正義らしきもの」を実現するためには嘘をついていいのか | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

「正義らしきもの」を実現するためには嘘をついていいのか

一定の「社会正義を実現したい」とします。仮にそれが正義であるとします。そして、その実現のために手段を選ばず、具体的には嘘を言ったり、誤った認識を煽ること、または、著しい不勉強であることに果たして正義はあるのでしょうか。私はないと思います。


その前提で下記をご覧いただければと思います。世の中には


「ソフトバンクの税負担は利益の0.006%! 大企業は法人税を払ってなかった(注)」

http://lite-ra.com/2014/10/post-513.html


という主張があります。これは世の中をミスリードする主張であり、たとえば選挙や社会運動でこれを論拠にすることはたいへんまずいことである、と私は考えています。そこで、なぜかを説明します。ちなみに、それぞれの企業につき、上の段がその主張をする方の提示している数字です。下の段がそれぞれの企業グループの本当の税負担です。


sb



①大企業はグループ経営を行っている


昨今、わが国では、持ち株会社というしくみを使ってグループ経営をする大企業が主流です。持ち株会社を端的に言うと、グループ経営の司令塔が持ち株会社の役割です。実際の収益事業は連結対象となっている各傘下企業で行います。よって、多くの収益は参加企業がそれぞれ上げて、企業ごとに納税します(グループで納税する連結納税制度もあります)。





②実際には税の負担は傘下の企業が行っている


ここで、持ち株会社は極端に言うと単なる司令塔であり、極論すれば各会社の株を持っているのが主な仕事ですから、入ってくるお金の多くは傘下企業の配当です。ここで、配当はもう、税金を引いた後のお金なので、これには再度法人税の課税はしません(法人のとらえ方により、課税すべきという意見もある)。そこで、持ち株会社の単体の損益計算書はほとんど税金がかかっていない、という見た目になります。





③企業グループの税負担はグループとして把握するのが正しい


さて、ここで、持ち株会社の税負担を並べて「税金を払っていない」という表現をする人々がいるのです。本当は(単純に言えば)グループの傘下各企業の税負担を足し合わせたものがグループの税負担であるのにもかかわらず。





④それにつけても、国際企業の税負担の低さは事実としてあるが…

もっとも、そうはいっても国際的な大企業の税負担率は低いです。それは、海外との税制の差を利用したり、あるいは過去の損失分の繰り延べで税金の負担を免除される制度があったりで、会社が大きいほど税の軽減のための技術を駆使して税負担を減らせる実態があるからです。多くの自治体が、国際的企業が何年もまともに税を支払ってくれないことで苦しんでいます(それは脱税ではなく、税にかんする技術によるものです。そして、抜け穴としてひどい場合にはいずれ、税制が改正されることでしょう)。




ただ、それはそれ。ソフトバンクの持ち株会社の税負担は500万円であっても、ソフトバンクグループの税負担が500万円ということはありません。 政策を訴えるとき、政策はもちろん、その論拠や説明もまた、誤解を招かないものにしなければなりません。



なお、図は @twitthal 氏のツイートからお借りしています。図の中身は有価証券報告書を見れば誰でも確認できます。





(注1)私はソフトバンクや孫正義氏とは全く縁がなく、利害関係もありません。





(注2)論拠となっている本の著者は、本体の税が500万円とは書いたが、実際にその会社は500万円しか税を負担していないじゃないか、という趣旨のことを述べています。しかし、実際にはそういう言い逃れ的なコメントはなかなか認められないのではないかと思います。