書評 須藤彰『自衛隊救援活動日誌』(扶桑社) | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

書評 須藤彰『自衛隊救援活動日誌』(扶桑社)

東日本大震災関連の本は山のように出版されていますが、本書は防衛省職員であり、東北方面総監部政策補佐官として被災地支援に活躍する現役のキャリア職員の「日記」という形式をとっているところに特色があります。

また、本書は個人の著書ではありますが、帯のコメントを現職の大臣と陸上幕僚長(出版当時は東北方面総監)が寄せ、巻頭言も君塚幕僚長 が執筆していることからうかがえるように、自衛隊として本書のPR効果に大変期待し、バックアップしていることが見て取れます。


さて、本書は震災5日目の3月16日から始まります。正確には11日から15日までの記録は日記ではなく、「まえがき」に収載されているのですが、著者の日記が正式に始まったのは著者の言葉で言う「一山を越えた」16日ということなのでしょう。

「まえがき」には著者の略歴や震災当日から15日までの様子が描かれていますが、震災当日の情報不足の様子、家族の様子が確認できない焦り、その後の夜を徹して目の前に仕事をこなす混乱期など、簡潔ながらもリアリティのある表現で、著者の表現力の高さに期待が高まります。


本文となる日記では、食欲や家族への思いなどの身近な感情と対比させながら、自衛隊の動きや仕事を通して見えた課題、自治体の仕事をする力の差の対する分析などが冷静に分析されています。

特に随所に現れる自治体の「差」の分析は、我々地方自治を担う人間にとって示唆に富んでいます。

私も常日頃から、行政経営理念に沿って自律的に考え、良い仕事をしてほしい、と職員に言っていますが、縦割りの壁、公務員特有の体質など、なかなか突き崩せないでいる課題が色々あります。

本書を見て思うのは「大災害が来た時、和光市役所が機能しうるように職員を鍛えることは日常の業務の改善と表裏一体である」ということ。

また、職員の皆さんにとっても、参考になるポイントが山のようにあります。

今、著者はまだまだ多忙な前線での調整、情報共有などの職務に追われていることと思いますが、いずれ和光市の職員にも経験を語ってほしいな、と心から思いました。

さらに、同じ子供を持つ父親として、大変共感する場面がたくさんありました。


ちなみに、本書は職員に読んでほしいと書きましたが、おそらくすべての地方自治に関係する人間、そして政治家にも参考になり、また、耳の痛い話がたくさんあります。ご一読をお勧めします。


*本書は富士総合火力訓練の往復の渋滞する道中に車の中で、車酔いしつつ読みました。

本書にしばしば出てくる君塚幕僚長とは直接お話が出来なかったのですが、当日のあいさつを聞いて、有事に部隊を率いる指揮官特有の厳しさと包容力、さらには温かさを強く感じました。厳しい現場を務め、山場を乗り切ったという充実感のある、精悍な表情でした。


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自衛隊救援活動日誌  東北地方太平洋地震の現場から