<書評>高橋彦芳『田直し、道直しからの村づくり―実践的住民自治をめざす栄村の挑戦 』 | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

<書評>高橋彦芳『田直し、道直しからの村づくり―実践的住民自治をめざす栄村の挑戦 』

本書は「田直し」「道直し」「下駄履きヘルパー」で有名な長野県栄村の元村長、高橋彦芳さんの自治論をまとめたもの。


本書では、栄村とはどういうところか、高橋さんはどのように育ったか、役場職員時代の仕事ぶり、村長になってからの行動などをさらっとまとめられている。
職員時代、戦後の農村で、公民館を使った結婚式を推進して喜ばれたとか、萱(かや)で菰(こも)を編んで売ることを農家に提案して、現金収入ができた農家から喜ばれたとか、雪害と戦うための制度を作った経緯とか、まあ、アイディアマンとして活躍してきた経歴が結構生き生きと描かれている。
さらに、村長になると補助を少しでも受けたら制約がかかる道路事業や農地の整理について、独自のアイディアで安く、必要なものを作る仕組みを次々と生み出していく。
そこにあるのは

「この土地に住み続けられるようにしたい」

「今ある地域の資源で何とかやりくりしたい」

「自立したい」

・・・そんな思い。そして、霞が関頼みではない、独自に考えて地域を守り、育てようという姿勢。

霞が関と地域の自治体、どっちが知識を持っているかというと霞が関だけど、知恵なら自治体が持っているはず。それを思い知らされる。

あとは、自立して考える習慣をつけるだけなのだ。

 

たとえば、田直し。

農林水産省のやり方だと設計から金がかかり、一定規模の農地にしか適用できないほ場の整備を現場で簡易的に目視設計し、ベテランのオペレーターが作業して完成させたものに事後的に設計図を作成する方法で国庫基準の三分の一のコストで済ませる。

棚田を機械が入る田んぼにする、最も合理的な方法に見える。

保水性の舗装の実験と称し、高速道路並みの費用をかけてしかも市役所前を整備するどこぞの市役所とは天と地(もちろんどこぞの市が地)である。

 

また、道直し。

7トンの除雪車が入る最低限の道路を地域の負担35パーセント、残りを役所、という負担割合でつくる。材料費と用地取得代は地域負担だから、「道路の用地で役所に吹っかけてやんべ」という輩は出てこない。重機は役所の職員が中心になって扱う。

 

そこには補助金はタダの金だからふんだくらねば損、というさもしいぶんどり意識は微塵もない。


この一冊で高橋氏の全てが分かるわけではないけれど、高橋氏の基本的な姿勢は十分学べる。
「道路特定財源クレクレ」と叫び、自らは思考しない凡百の首長と一線を画す彼の基本理念と行動原理、そして、アイディア精神を一人でも多くの政治家に読んでいただきたいもの。

特に道路特定財源に縛って欲しくて仕方がない、福岡県某町の町長にぜひ。

約100ページで1238円の元は絶対に取れる。


田直し、道直しからの村づくり―実践的住民自治をめざす栄村の挑戦