「和光市は赤字なんだって」に答える
最近、「和光市は赤字なんだって!?」という声を時々聞きます。
なので、この際はっきりとさせておきましょう。
そう、グラフのように実質単年度収支が赤字は赤字です。
まず、おさらいです。
総務省方式決算カード(例:大阪府下の自治体 17年度)の右上にある収支の構造の見方は過去に示しました。私の著書『自治体連続破綻の時代』(洋泉社)にも説明してあります。
以下、再掲。
Ⅰ 歳入総額 (+)
Ⅱ 歳出総額 (-)
Ⅲ 歳入歳出差引(形式収支) (Ⅰ-Ⅱ)
Ⅳ 翌年度に繰り越すべき財源 (-)
Ⅴ 実質収支 (Ⅲ-Ⅳ)
Ⅵ 前年度の実質収支 (-)決算カードには出てこない過去の蓄積
Ⅶ 単年度収支 (Ⅴ-Ⅵ) よく新聞報道で出る「赤字、黒字」
Ⅷ 財政調整基金への積み立て
及び地方債の繰上償還額 (+)
Ⅸ 財政調整基金の取崩し額 (-)
Ⅹ 実質単年度収支 (Ⅶ+Ⅷ-Ⅸ)これがプラマイゼロなら均衡財政
さて、詳しくは下記の解説を見ていただくとして、グラフの3指標に注目しましょう。一番数字が下に行っていて(つまり悪くて)動きも激しいのが実質単年度収支です。これが本当の帳尻です(つまり最も大切)。
これが和光市では堂々の「赤」になっています。ただ、赤は珍しいことではありません。
なので、「赤だからダメ」というのはちょっと違います。トレンドとして下がっているか上がっているかが大切です。
そこで、実質単年度収支の近似曲線(線形)を描いてみたのが下記。
ちなみに、近似曲線は線自体には意味がなく、トレンドを見やすくするための補助線とお考えください。
それを今度は貯金の調節でいじくったものが単年度収支です。
企業で言うなら、特別損失、特別利益を控除したものに近いですね。
いわゆるケイツネ(経常利益)のイメージです。
また、単年度収支は線形を描いてみてもほぼ横軸と平行、実質収支はやや右に上がっているグラフになります。
次の実質収支は右上がりになっています。
念のため、多項式(3次)の分析をしてみると下記のようになります。
実質単年度収支のトレンドはここ数年下がってきていて、実質収支も同様、単年度収支はゼロで完全に横ばいです。
ということで、貯金を調整しながら支出をしているものの、トレンドは悪い方向に向かっていることがはっきりと読み取れるかと思います。
実質単年度収支赤字は確かに次世代の負担を増やしたことを意味しますが、飛び出したり凹んだりがありますので、単年度の赤字を一年分取りあげて即判断、というのは危険です。
むしろトレンドを見ての判断によってはその年だけの特異な値の場合もあります。
しかし、残念ながら、和光市の実質単年度収支のトレンドは「かなり悪そうだ」というのが結論になります。
この点からも歳出の削減が求められることがわかります。
念のため、財政指標の解説を再掲しておきます。興味がある方はお読みください。
・歳入歳出差引(いわゆる形式収支)
歳入決算総額から歳出決算総額を差し引いた歳入歳出差引額
・実質収支
その年度に属すべき収入と支出との実質的な差額をみるもの。形式収支から、翌年度に繰り越すべき継続費逓次繰越(継続費の毎年度の執行残額を継続最終年度まで逓次繰り越すこと)、繰越明許費繰越(歳出予算の経費のうち、その性質上又は予算成立後の事由等により年度内に支出を終わらない見込みのものを、予算の定めるところにより翌年度に繰り越すこと)等の財源を控除した額。この数字にはほとんど意味がない
・単年度収支
実質収支は前年度以前からの収支の累積なので、その影響を控除した単年度の収支。具体的には、当該年度における実質収支から前年度の実質収支を差し引いた額。貯金等を使ったやりくりや、あるいは余ったカネの貯金などを計算に入れた当年度の収支。つまり、化粧済みの成績。従来の新聞報道の「市町村が赤字、黒字」の根拠(いかにマスコミが地方財政を理解して報道してこなかったかが分かる。ちなみに、最近の若手記者にはこの点、勉強している人がたくさん出てきた。これは良い兆し)
・実質単年度収支
単年度収支から、実質的な黒字要素(財政調整基金への積立額及び地方債の繰上償還額)を加え、赤字要素(財政調整基金の取崩し額)を差し引いた額。つまり、年度の実質的なお金の最終的な収支。ゼロで普通会計ベースの均衡財政。ここがマイナスだと後年度の負担が増え、ここがプラスだと減るということになる。連続赤字は連続して次世代にツケ回しをしているということで論外。
家計で言うなら、貯金と貯金取り崩しを相殺した、年度の純粋な収支に相当。