書評 立木信『若者を喰い物にし続ける社会』 | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

書評 立木信『若者を喰い物にし続ける社会』

立木信さんの著書については全て読んでいます。過激でオヤジギャグ満載ながら、大変ユニークな切り口で世の中を分析する泰斗だと思っています。そして、世の中の矛盾のうち、普通はタブーとされる部分に切り込む切り込み方がまた個性的で、いつも新鮮に読ませていただいています。

今回は格差の本質に迫ったということで非常に微妙なテーマを大胆に料理しているな、と感じました。私にはとても言えないような過激な言葉がぽんぽん出て来ます。


さて、

①本書は若者政策の不在は問題だ

②世代間格差が大きすぎる

という問題意識で書かれています。


世の中に老人向けの施策はあっても、あるいは少子化に対応する施策は(老人施策と比較するとごくごく少額ですが)あっても、若者施策は皆無に等しいです(革新系の若者に仕事を、というのはウソ。支持母体を見れば分かる)。

これは各党の参議院選に向けたマニフェストなどを見ると明らかです。

そんななか、著者は格差に苦しんでいるのは就職氷河期世代など、若い人々であり、逆に年金逃げ切り世代や団塊世代は不当に潤っていると主張します。(活字の消費者として莫大なマスを持つこれら世代を平気で敵に回す大胆さが立木さんの面白いところです。田原総一郎や鳥越俊太郎にはそんな根性はないでしょう。)

また、著者は若者予算の確保の必要性とともに、政治に「世代会計を見よ」と訴えます。

世代会計はコトリコフにより提唱された歴史の浅い研究領域ですが、少子高齢化が各国で進み、財政赤字の垂れ流しが問題になってからは大いに注目されています。

世代会計は「各世代別に、政府に対する支払い(税金の納付、国債の購入、年金の支払い)と政府からの受け取り(補助金の受け取り、国債の利払いの受け取り、年金給付)をそれぞれ分類して、しかもそれをある世代に属している人が一生の間に合計でどれだけ受け取ったり支払ったりしているかを計算して、世代別の損得勘定を確定すること」(現代用語の基礎知識)とされています。

世代間の損得勘定を浮き彫りにするもので、単なる財政赤字の数値よりはよほどの説得力を持っています

著者は世代会計こそ未来会計であるとして、次世代にツケを回さない独自の政策をいろいろと考えて提示しています。

なかでも、少老化というフレーズは面白いです。これは、「福祉の対象となる老人」という定義を変えて、元気なお年寄りにもっと活躍していただけるフィールドを提供することで少子高齢化を乗り切ろう、というものです。

(私は個人的には、近い将来には自治体でも世帯会計を背景に持つ政策形成を行うべきだと思っており、私の著書でも世代間の格差についてある程度ページを割いています。)

また、著者は年金を絶対に反論せず従順な子供と表現しており、大いに頷かされます。

以前、お年よりは大家族で尊重はされましたが嫁や舅との人間関係、子供との軋轢には苦労しました。それが、年金という一種の人工的な子供代わりが銀行口座に振り込まれるようになり、大家族での力関係が変質した、というものです。

このように、独自の分析を加えつつも、著者はこれからの時代を「お年寄り帝国」と揶揄し、また団塊世代を「早く年金生活者になりたい人々」と表現します。

このように並べると、とにかく高齢者に冷たい本、というイメージになりますが、著者の問題意識はとにかく、持続可能な仕組みへ転換しなければ若い世代の明日がなくなってしまう、そうすると日本のお先は真っ暗だ、という強い思いに支えられています。

その点、甘い政策をちらつかせつつ財政破綻へとこの国を誘導してきた「革新系」とは正反対の、強い責任感を感じます。

本書を読むとまず、「世代会計について知りたい」と感じると思います。さらに、「左翼的弱者論」のウソへの怒りが沸いてくるはずです。

ぜひとも、手に取っていただきたいと思います。

この国の人たちにはとにかく世代会計を知っていただきたいです。

私も皆さんも、次世代に(金銭的にも環境的にも)膨大なツケを回しながら生きています。それは見たくない現実ですが、事実です。それを正面から見る視点を本書は与えてくれます。


なお、この本には私が数行登場します。これもぜひ、ご覧いただければと思います(笑


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若者を喰い物にし続ける社会 (新書y (175))