渡部昇一『ハイエク~マルクス主義を殺した哲人』を読んで | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

渡部昇一『ハイエク~マルクス主義を殺した哲人』を読んで

書店で手にとって、「えっ???ケインズ主義を半殺しにした哲人」の間違いでは、と突っ込みから入った一冊。


渡部氏はハイエクが専門ではないからか、ハイエクをしっかり理解して書かれたものとは言えないな、と感じるところが多々あり、本書をもってハイエク入門としてお勧めするのは控えますが、日本人にはなじみの薄いハイエクにとり、渡部氏によって紹介されること自体は無意味ではないと思います。


さて、中身は基本的に名著『隷属への道』という、自由の価値について解く古典的名著を下敷きにしています。『隷属への道』の訳文(西山版)から(適当に)フレーズを取り出し、渡部氏が解説するスタイル。
ハイエクは(極論すると)ナチとと対決しつつ同じ道に通じているケインジアンと戦ったのですが、本書ではなぜか敵であるケインズ主義がすべてマルキシズムに置き換えてありました。「渡部氏の我田引水」と評価されるのも納得です。


『隷属への道』の執筆当時、イギリス社会ではナチとの戦いが社会のテーマであり、ナチと効率的に戦うために自由を捨てよ、といわんばかりの論調が流布していました。だから、社会主義とナチの同一性を強調しつつ、社会に密かに浸透しつつある自由の放棄という現象を強く憂いていたわけです。


なので、本書は私のような素人から見ても「ずれて」います。

いろいろ調べると、肝心な西山千明氏(『隷属への道』訳者であり、ハイエクの紹介者として有名な立教の名誉教授)も本書を痛烈に批判しているようです。

それはさておき、マルクス主義を殺した云々を90パーセント割り引けば、本書はある種のハイエク入門として読むのは無意味ではないと私は感じました。


なお、当時のイギリスの状況は戦後の日本の状況でもあり、「経済戦争」という戦時に与えられてきた官僚への全権委任的なものが戦後も長きにわたって官僚よって行使されてきた日本では、ハイエクの思想はもっと大切にされていいと思います。戦時体制は臨時だから許されるのであり、60年も続くのは異常なのです。(本書が十分なテキストかどうかは別にして)『隷属への道』の一端に触れると、戦後の日本に当時のイギリスと似ている面があることに驚くだろうと思います。


ということで、ハイエクについ知らないかあまり詳しくないけど、渡部さんなら読んでみよう、という人にはお勧めです。何しろ、ハイエクは、ケインズやマルクス

と同等以上にメジャーになるべき思想家です。


なお、渡部さん嫌いなら、通読はしんどいかもしれません。スルーしましょう。

その場合、自由主義経済の読み物としては、フリードマンの『選択の自由』の方がいいのではないかと思います。


なお、ハイエクはフリードマンやミーゼスと最終的にうまくいかなかったようで、人間関係的にはケインズ(ケインズ主義とケインズは別、らしい・・・)と友達だったようですね。