実質収支と実質単年度収支~ハムスターでもわかる自治体財政用語シリーズ | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

実質収支と実質単年度収支~ハムスターでもわかる自治体財政用語シリーズ

毎年、秋になると「赤字自治体、県内で◎団体、前年より増加」などというニュースが新聞の地方面に掲載されます。これは実は大変問題のある現象です。

このような報道の基準となっているのが実質収支です。実質収支は下記の手順で算出されます。


Ⅰ 歳入総額<プラスの数字。役所に入ってきた現金>

Ⅱ 歳出総額<マイナスの数字。役所から出て行った現金>

Ⅲ Ⅰ-Ⅱ 歳入歳出差引<形式収支のこと>

Ⅳ 翌年度に繰り越すべき財源<マイナスの数字。たまたま年度内に終わらなかった事業に関する経費なので、翌年度には金は残らない>

Ⅴ Ⅲ-Ⅳ 実質収支

このように実質収支は算出されます。

で、これを年度の自治体の成績というか、赤字黒字の基準にするというのはどうかということですが、論外です。なぜなら、ここには財務面での収支が含まれないからです。(また、単式簿記では、昨年までの蓄積が単純に残高として残っているので、今年の実績を見るには前年度の実質収支をも差し引く必要があります。)

ハムスター的に解説すると、実質収支を増やそうと思ったら、貯金(いわゆる基金)を取り崩せばいいのです。つまり、十分な貯金がある限り、実質収支はプラスに操作できます

なお、いくら良い運営をしても、実質収支がマイナスになることがあります。

大量に貯金(基金への積み立て)をした結果、たまたま実質収支がマイナスになることは十分にありうる話です。

このような操作可能な数字を会社の成績の基準にすることは、ビジネスの世界では間抜けというか、ありえません

なお、ビジネスの世界で古来、よく使う指標にケイツネ(経常利益)があります。これは、主な事業の収支による成績を示す指標であり、特別利益、特別損失という財務面での収支は入っていません。特別利益を出すには株の含み益を吐き出したり、本社ビルを売ったりするわけですが、こんなものが経営者の成績ではないことはビジネスの世界の住人なら知っているわけです。

では、財務面の影響を取り除いた、つまり、貯金の出し入れに左右されない自治体の収支とは何なのかと言うと、下記の計算が必要です。

Ⅵ 前年度の実質収支

Ⅶ 単年度収支 Ⅴ-Ⅵ<前年度までの蓄積を引く式>


Ⅷ 基金への積み立て+地方債の繰り上げ償還<プラスの数字。貯金した、あるいは借金を返した>

Ⅸ 基金の取り崩し<マイナスの数字。貯金を取り崩した>

Ⅹ 実質単年度収支 Ⅶ+Ⅷ-Ⅸ

この、実質単年度収支が自治体の最終的な数字の帳尻です。

もちろん、これは普通会計 であり、公営企業会計や第三セクターの会計などは別ですし、自治体といえでも粉飾も大いにありうるので、ここだけではまったく安心できません

しかし、この実質単年度収支こそが出発点であることは間違いないと思います。

ということで、実質収支を基準にした報道は愚であるということが納得していただけたでしょうか。

ちなみに、和光市はどっちも黒字でつまらないので、下記に兵庫県篠山市のグラフをお示しします。実質収支の推移と実質単年度収支の推移には関係がなく、実質収支の推移だけに注目するということは世論をミスリードすることだということがグラフから読み取れます


篠山市

出所:篠山市役所(クリックすると大きくなります)


結論ですが、実質収支だけで業績の判定はできません。そういう報道はまやかしの報道です

最低でも実質単年度収支の推移と併せて見ましょう。

ところで、この種の指標ですが、議員でも職員でもしっかりと頭に入っている人は少ないですから、議員(特に新人)各位もご安心ください。私も忘れないために、時々思い出したように書いているのですw。

なお、詳しくは下記の本をご参照ください。

<松本武洋の著書『自治体連続破綻の時代』についてはこちら >