中岡望著『アメリカ保守革命』とblog「中岡望の目からウロコのアメリカ」<修正版> | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

中岡望著『アメリカ保守革命』とblog「中岡望の目からウロコのアメリカ」<修正版>

アメリカの中間選挙が民主党の勝利で終わり、飽きっぽい日本のマスコミはすっかりアメリカの政界のことなど忘れてしまいました。また、選挙結果を「ネオコンの退場と共和党時代の終焉」というような単細胞な認識で論評する向きがかなりありました。

そういうなかで、恐ろしく的確に状況を分析したブログがありました。

しかも、その製作者は会社の大先輩(笑。

「中岡望の目からウロコのアメリカ」

この際なので皆さんにお勧めしておきます。

ここでは、アメリカの保守化に退潮はなく、むしろ民主党は保守政策の取り込みにより、穏健な中間層の取り込みに成功しただけだ、ということが論理的に分析されています。

日本では、民主党的な選挙テクニックを駆使した小泉チルドレンと呼ばれる新人の大量当選が自民党の圧勝を作りましたが、アメリカでは銃規制反対、中絶反対、クリスチャンコオリション寄りの「共和党候補みたいな民主党候補の新人」が勝敗の帰趨を握りました。(日本と似ていますね。)

つまり、共和党革命は挫折したが、保守化は止まっていない、というのが中岡氏の分析であり、私もまったく同感です。私も日本に本当のコンサバティズム運動を作るにはどうすればよいのか、をいつも考えていますし、日本の本来の意味での保守化は、世界の保守化の一環だというのが私の認識です。保守化の定義は一様ではないですが、世界は保守化の途上にあります。

さて、本題です。

中岡氏はこの『アメリカ保守革命 』(中公新書ラクレ)で、世界を覆うアメリカ化、そして、その流れを汲んだ保守化の流れを源流から解きほぐしています。

そもそも、アメリカの保守運動はリベラリズムへの反対運動から始まりました。

そして、次第に理論化、組織化され、まず伝統的な保守主義運動がウィーバー、カークらによって一定の完成を見ます。ベースは、伝統的価値の尊重、そして、人間は不完全な存在である、という認識、さらにキリスト教・ユダヤ教的価値観の尊重にありました。

その後、ヨーロッパの共産化の魔の手から逃れた亡命リバタリアン(「市場が問題を解決する」。古典派の復興はミーゼス、ハイエク、フリードマンらにより為された)によって、「ケインズ革命(政府が市場をコントロールする。国家や一部エリートの判断は市場の判断より勝る)」への反対運動と古典派の復興が始まります(新古典派)。

当時、ケインズ主義者(今のアメリカでは社会主義者に近い扱い)のニューディール政策が経済学の世界を覆いつくしていた頃です。

さて、この2つの運動は当初、互いに別々のものでした。

そして、この2つをメイヤーというジャーナリスト出身の学者が結び付けます。

1つになったアメリカ保守主義大きな流れはやがて、レーガン革命へと昇華して行きます。

(レーガン革命を徹底的に無視し、白眼視したのが当時の日本のマスコミです。当時はまだケインジアン全盛であり、朝日新聞などは田舎役者という論調でこき下ろしました。)


さて、このような保守主義運動本流の流れを源流から2004年までたどり、本書の前半は終わります。ここまで読むと、民主党と共和党のバトルの歴史が手に取るように分かります。

また、本書の後半はネオコン運動の歴史です。

民主党から離れたインテリたちがどのように保守化し、共和党に入り、やがては共和党の政策決定に大きな影響を及ぼすようになるか、という流れを俯瞰的に眺めていくのですが、とにかく本書を見ていると、ネオコンの出所来歴と本質的な立ち位置がすっきりと理解できます。

安部首相がネオコンとかそういう驚くべき非常識な論評が国内ではある程度有名な評論家によってもなされていますが、そういう評論家の酷さも本書を読めば楽しめるようになると思います。


さらに、本書の特徴は中岡氏が辣腕の経済ジャーナリストだということです。よって、政治の専門家では理解できないレバタリアンやネオコンの経済政策について的確な分析がなされています。

さらに、レーガノミクス(レーガンの経済政策)やブッシュ、クリントン経済政策についての分析も本書が一番分かりやすく、的確にまとまっている気がします。

アメリカの政治について知っておくことは、日本の将来を考える前提知識として絶対に欠かせないと思います。皆さんにお勧めするのは当然ですが、個人的には全ての国会議員とその秘書に読んでほしい一冊だと思っています。


アメリカ保守革命


追記:日本のジャーナリズムの中では、「アメリカの保守は新世界のゼロから作り上げられた地域の保守であり、しかもヨーロッパ保守の亜流だ。日本には伝統も地域社会もあるのだから、ヨーロッパ型の保守を目指すべきである」という意見に人気があります。

名うての碩学も多くはその種の論調ですが、正直、「それを言うならどっちも宗教(一神教)をベースにした世界観だから参考にならないんじゃないの? そして、アメリカの伝統や地域社会もないわけじゃないんだけど。何しろ近現代日本とアメリカではアメリカ史のほうが長いんだから・・・・・」と思います。


ただ、現実問題、世界のある程度政治的に影響力のある勢力はほとんど一神教がらみです(マルクス主義もキリスト教のカウンターパワーとしての宗教と考えるのが合理的)。この種の保守思想について理解し、それを軸に動いている現実の世界を認識してその中を周囲を見つめて泳いでいくことが日本人には求められています。現実は日本人の願望とは離れたところにあります。

もちろん、私たちのアイデンティティは守れる&守るべき部分については守りたいですが。

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