格差社会についてちょっと考察します3~代行返上
さて、退職給付会計の導入などで過去勤務債務(いわゆる未払いの給料)の重圧が明らかになった企業は、正社員の新規採用を減らし、派遣社員などを活用する身軽な経営にシフトせざるを得ませんでした。
また、その後2002年から始まったのが年金基金の代行返上です。代行とは、企業が国に代わって年金の管理と運用を行っていた部分のことであり、企業は資金運用を上手く行うことでその資金から巨額の利益を得、年金積立金の節約などに役立ててきました。代行返上とはこれをやめて国に業務を返上するというものです。
従来必ずといっていいほど運用実績が予定利率を上回り、代行に大きなメリットがあったのが、不況で代行のメリットが失われていました。一方で、会計制度の改訂を踏まえ、運用資産の時価(荒っぽく言うと市場価値)の変動が企業の業績を大きく左右するようになったことから、企業の財務的なリスクは従来の比較にならないほど高くなっていました。
ということで、企業は先を争って代行返上を行いました。
(代行返上で、2002年度の株式市場はかなりの売り圧力を受け、相場の回復にも大きな影響がありました。これはそのまま景気回復の遅れにつながったのではないかと私は個人的に思っています。)
代行返上の際、企業年金は確定給付型から確定拠出型に変わり、企業の年金債務リスク(退職金などに備えなければならないことによってもたらされる財務的なリスク)は激減しました。
最近でこそ、身軽になった企業は景気回復とともに正社員の大量採用を行っています。何しろ、従来1人の正社員を抱えることで背負っていたリスクと今のリスクを比較するともう、比較にならないほど小さいのですから。
しかし、失われた十数年の間に社会に出た若者は放置されました。
取り残された20代後半から30過ぎの若者は景気の回復した企業に吸収されるわけでもなく、フリーター、契約社員、ニートとして今に至っています。
代行返上は、企業のリスクを低減しましたが、景気回復に悪影響を与え、格差社会のきっかけを作ったのではないでしょうか。
また、代行で企業は巨額の差益を掛け金の運用益から抜き取りました。この抜き取った分は本来、誰のカネだったのだろうという話もあります。
そして、年金基金のカネがどのような銘柄に投資されてきたのかというところに胡散臭さも感じます。
とにかく、社会問題化している年齢の高いフリーターや契約社員、ニートはこのような時代の犠牲者であるというのは間違いないのではないでしょうか。
ここ数年、大卒、高卒にかかる求人は急激に回復しています。
ただ、今の若い人々はすでに公的セクターの過去の莫大な借金を背負ってスタートしなければなりません。ですから、今の就職しやすい状況も、さほど救いにはならないのです。
まだ続きます。