『大阪破産』(吉冨有治)を読む | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

『大阪破産』(吉冨有治)を読む

話題の本をようやく読みました。

本書は大阪の財政について、そして、市政の現状について、大阪在住の金融ジャーナリストが分析するものです。

第一章は未来シミュレーション。

大阪市が再建団体になったらどうなるのか、破綻の原因はこうこう、破綻後はこうなる、と脚色はあるものの、かなりいい感じでシミュレートしています。この通りになるかどうかはわかりませんが、この程度のことはあるだろうという内容に仕上がっています。近未来小説ばりの読ませるプロローグです。

第二章では土地信託に失敗した典型例である、間抜け遊園地「フェスティバルゲート」、数々の第三セクターなどの大阪の失敗を列挙しています。

大阪府のりんくうタワーと関西一の高層建築争いの結果、無駄に背が高くなったATCビルなんて、本当に無駄そのもの。読んでいると眩暈がしてきます。国際流通センターの主役がダイソーというのは滑稽を通り越して、妙に感心してしまいます。

間抜けの一言です。

第三章は大阪市役所の職員厚遇問題のおさらい。

どのようにしてヤミ給与が作り出されたかという過程の解説は特によくできています。結局は組合交渉が非公開だからこういう抜け道を設計する輩が出てくるわけです。このしくみを考えた人は詐欺師です。詐欺師。

とにかく、きれいに総括されています。

関西のメディアはこの問題についてしっかりと続報したのですが、関東ではフォローできないため、この本でまとめて読んでおくのは意義があります。

第四章は大阪市の財務分析。自治体の財務分析手法をわかりやすく解説しながら駆使して、ざっくり解説しています。何より、要するに・・・という書き方なので、役所言葉の解説書より格段に読みやすいです。

大阪の財政赤字について、起源から辿ってあるため、他の自治体の人間が他山の石とすることもできます。

第五章は破綻自治体の先駆者(?)である赤池町の事例をもとに、つぶれたらこうなる、という内容を解説しています。

そして、付録は大阪市の外郭団体一覧。ものすごい数です。

さて、私は自治体の財政の将来に悲観的な展望を持っています。

なぜなら、市民に対して財政の抱える構造的な問題を論理的に語る政治家がほとんどいないからです。

財政危機を語る議員にはヒステリックに危機をあおるだけの人も多く、何が危機でどの程度のリストラが必要かを市民が知る方法は限られています。

そして、情報不足のまま、市民は自治体にこれまで通りの要求をします。自治体は、ない袖を今のところは振り続けています。

本書は皆さんの地元の近未来像です。

大阪市はスケールが大きいだけに絶望的な状況がはっきり見えますが、皆さんの地元も条件は同じです。

本書は自治体の将来を展望するのに妥当なツールと判断基準を読者に与えると思います。

一部の議員や職員は著者の地方自治法などに関する知識不足の揚げ足を取る反応をするでしょうし、あるいは危機感が過剰だと揶揄するでしょう。

しかし、私は著者の危機感に非常に共感するものを感じました。ご一読いただく価値があると思います。

追記:夕張市が破綻宣言をしました。そして、その後、粉飾決算とさまざまな問題が明らかになりました。自治体はトカゲのしっぽです。地元が切られないように、しっかりと自治体の財政を監視しましょう。(7/12)