映画『男たちの大和/YAMATO』 の感想  | 前和光市長 松本たけひろ オフィシャルウェブサイト

映画『男たちの大和/YAMATO』 の感想 

映画『男たちの大和/YAMATO 』を見て思ったことをつらつらと書かせていただきます。

ストーリーなど内容の説明は別のところを参照していただくとして、あくまで部分部分に関する私の個人的な感想です。

軍のしごき

まず、軍のしごきです。この映画では中村獅童演ずる内田が上官のしごきを受け、最後は逆切れをするという、ありえない不思議なシーンがありました。

理不尽なしごきが度を越したとき「兵隊に怪我をさせて戦争ができるのか」と上司を殴り飛ばすというもの、あまりに合理的な普通の感性に素通りしがちなのですが、ちょっと待て、という気持になりました。軍隊ではやはり統率が大切ですから、これはNGなのです。

まあ、困った上司が罰せられるというのはあっても、上官を殴るというのはありえませんね。これは、統率が乱れると死に繋がるという、特別な世界の絶対のルールです。

(ちなみに、軍隊ではストレスが常にたまりますから、米軍は軍人の心と身体の調子を最高に維持すために予算を投じました。一方で、日本軍はストレスをいじめで解消し、行き場のないいじめの怒りを溜めた最底辺の兵士は捕虜や現地人を虐待しました。こんなことをやっていて勝てるわけがないですね。戦争末期、現地人によって日本軍の行動は米軍に筒抜けになっていたというケースがたくさんあるようです。)

また、軍隊は普通、とにかくその時々の情報を分析して最良の選択肢を採用し続けなければならず、よって軍の指揮官の品質は非常に大切です。なにしろ、絶対的な権限を持つ指揮官が無能であれば、その部隊の運命は・・・・。

日本軍は兵士の訓練は優れていたものの、士官に関しては外国のさまざまな文献で「無能」との烙印を押されています。

多分、無能管理職が横行し、映画のような、あるいはもっと陰湿でしつこいしごきが常態だったのでしょう。

②兵士をモノとして扱う軍官僚

後半、無能な連合艦隊指令(=官僚)が米軍の戦力に打撃を与え得ない海上特攻という間抜け作戦を強行します。艦長が作戦の無謀さを説きますが、無能官僚はそれをまったく無視します。

そこには、現状維持を願い、そのためには人命すらゴミ同然に捨て去る軍官僚の恐ろしさがあります。

官僚機構にとり、大切なのは人ではなく、現状維持なのではないかと思います。今の日本社会もそう見えませんか?

③日本軍(=カルト宗教)に骨の髄までしゃぶられる若者たち

痛ましかったのは少年兵の「死の覚悟」です。覚悟を美しい、男だと持ち上げるのは勝手ですが、死の覚悟など必要ない世の中がいいに決まっています。思考停止を強制され、畏れ多くも「陛下の名義を僭称して実質は軍官僚が支配する、カルト宗教」たる戦争システムのロボットになってしまったのが彼らです。

映画では海上特攻に向かう途上、いろいろと海上特攻への疑問が噴出するシーンがありましたが、通報システムが完備した典型的なカルト組織である、当時の日本軍の内部ではあのような疑問はおおっぴらには口にできなかったはずです(以前のチャウシェスク政権下のルーマニアや現在の北朝鮮に似ている)

カルト宗教の内部では、自由な言論はなく、個人は横の心のつながりを持てず、人々は「組織(=組織を隠れ蓑にした利権を持つ支配者としてのカルト幹部)と個人」という関係で縦方向に縛られます。

いずれにせよ、彼らの行く末はまさにカルト信者のようでした。

④「死ニ方用意」は「消費税値上げはやむなし」と同じ、あきらめの処世術

印象的なシーンがありました。それは、特攻の途上、上官が「死ニ方用意」という教育を行うシーン。ここのシーンは一見きれいなのですが、日本人のあきらめの処世術を象徴している気がします。

違うようで似ているのが「消費税値上げはやむなし」という洗脳教育ですね。

⑤そして歴史は繰り返される~「大和」の世界は今も続いている

ゴミのように使い捨てされる兵士、まさに使い捨てにされリストラされている企業戦士のようです。

会社には陰湿ないじめもあります。

そして、一部の会社はカルト組織。

海上特攻は不良債権処理やリストラ補助金などに湯水のように投じられる巨額の税金でしょう。

「男たちの大和」の世界は今も続いているのです。

私はあの映画にデジャヴを見た気がします。

⑥ついでに平和について

さて、この映画は左翼陣営でも好評でした。なぜなら、そこには軍隊の理不尽と戦争の悲惨さ、人々の愛の美しさが込められているからです(多分)。

ただ、特に彼らに誤解しないでいただきたいのは、ただ「平和」を叫んでも何も解決しないということです。

平和にはいろいろなコストがかかります。人の歴史は殺し合いの歴史でした(平和の方がバランスが悪いのかもしれません)。そして、戦争を抑止する方法はパワーバランスと交渉術です。

再び戦争の当事者にならないためにも、責任ある平和への取り組みを私のポジションで可能な範囲で行って行きたいものです。